「人への投資が経営の未来を左右する」と言われる今、企業に求められるのは変化に対応できる人材の育成です。しかし現状は、「研修費が高い」「適切な教材がない」「現場の仕事が多忙」などの理由で、踏み出せない企業も多いのではないでしょうか。
そのような中、厚生労働省が研修受講費用の最大75%を助成する「人材開発支援助成金」を活用し、eラーニング研修を新規事業として立ち上げる企業が増加しています。
本記事では、研修事業を提供されている、もしくは、提供を計画されている企業の方々を対象として、「人材開発支援助成金」の「事業展開等リスキリング支援コース」に対応したeラーニング研修ビジネスを立ち上げる方法を、具体的に解説いたします。
研修受講費用の最大75%が戻ってくる ― 制度の基本情報
厚生労働省が実施する「人材開発支援助成金」は、企業が従業員に対して職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。(詳細は、厚生労働省の「人材開発支援助成金」ウェブサイトを必ずご確認ください)
人材開発支援助成金には以下の4つのコースがあります。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等不要コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
この中でeラーニングでの提供が最もしやすいのが、④の「事業展開等リスキリング支援コース」です。

(厚生労働省ウェブサイトのフローチャート図を元に弊社で作成)
「事業展開等リスキリング支援コース」に対応した研修をeラーニングの形で提供する場合、
- 10時間以上の長さの動画eラーニング研修を提供する
- 受講者がeラーニング研修動画を10時間以上受講する
- 受講した履歴がLMSに正しく記録される
- 受講企業側で研修受講の事前と事後に労働局に対して申請を行い認められる
という条件を満たすと、受講企業に対して研修費用の最大75%(中小企業の場合)が助成されます。
例えば、受講費用30万円のeラーニング研修を10名で受講した場合、
⇒ 最大で、(30万円×10人)×75%=225万円 が助成され、75万円で研修が受講できることになります。

LMSとは ~学習管理システムの基本から応用まで、機能と活用、これからを知る~ – Qualif eラーニングラボ
本記事でLMSの基本機能、応用機能について理解することで、LMSをより使いこなすことができます。
日本政府が推進する「リスキリング」の背景と戦略
日本では、急速なグローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)化の進展に伴い、企業が新しい事業モデルへ転換することが求められています。こうした変化に柔軟に対応できる人材を育成するため、「リスキリング(職業能力の再開発)」が国家戦略として明確に位置づけられています。
2022年には、政府が5年間で1兆円をリスキリング支援に投じる方針を発表しました。また2023年度からは、人的資本経営の一環として、大企業に対して「人的資本に関する情報開示」が義務づけられました。これにより、従業員教育やスキル形成への投資が、企業の中長期的な経営課題として改めて認識されるようになっています。
人的情報開示の内容は、義務化の項目とは別に2022年8月に内閣府が「人的資本可視化指針」を発表しています。また、経済産業省の報告によれば、大半の企業が「人材不足」を感じており、課題解決手段としてリスキリングを挙げる企業が増加しています。
参照文献:
・経済産業省「未来人材ビジョン」報告書
・経済産業省 「イノベーション創出のための 学びと社会連携推進に関する研究会 報告書(概要版)」
理解を深めるリスキリングの参考記事:
・リスキリングへの対応は? ~積極的な企業は26.1% 帝国データバンク全国調査(Qualif eラーニングラボ)
事業展開等リスキリング支援コースの詳細
人材開発支援助成金の4つのコースのうちの1つである「事業展開等リスキリング支援コース」では、基本要件が3つ定められています。
- OFF-JTにより実施される訓練であること
- 実訓練時間数が10時間以上であること
- 次の①または②のいずれかに当てはまる訓練であること
①事業展開を行うにあたり、新たな分野で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練
②事業展開は行わないが、事業主において企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化やグリーン・カーボンニュートラル化を進める場合にこれに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練
これらを詳しく見ていきましょう。
1.OFF-JTにより実施される訓練であること
これは解説不要かと思いますが、OFF-JTつまり業務とは離れた「研修」として実施する必要があります。人材開発支援助成金の別のコースではOJTに対する助成もありますが、研修事業を行う皆様の立場からすると、顧客企業の中に入り込んで行う必要があるOJTよりも、外側から育成を行うことができるOFF-JETの方が実施しやすいのは明らかだと思います。
また、OFF-JETの実施方法としては、以下の5つが定義されています。
- 通学制
- 同時双方向型の通信訓練
- eラーニング
- 通信制
- 定額制サービスによる訓練
対面で行ういわゆる集合研修やZoom等で行うオンラインライブ型の研修も認められていますが、研修講師の稼働の負荷などを考えると、オンデマンド型のeラーニングでの提供が最も費用対効果が高いと考えられます。そのため、本記事でもeラーニングでの提供に絞ってお伝えをしています。
2.実訓練時間が10時間以上であること
これも文字通りに理解すれば大丈夫です。eラーニングで研修を提供する場合は、10時間分以上の動画教材を制作して提供する必要があります。
また、受講者が10時間以上受講したことを証明するために、LMSで一人ひとりの受講履歴を記録し、その記録を提出する必要があります。つまり、そのような機能を持ったLMSを選定して利用する必要があります。
3.次の①または②のいずれかに当てはまる訓練であること
ここで、どのような研修を提供するかの選択肢が出てきます。わかりやすく書くと以下の3つの選択肢が挙げられています。
①新規事業展開のための知識・スキルの習得
②-1 DXに関する知識・スキルの習得
②-2 GXに関する知識・スキルの習得
この中で、皆様の多くにとって研修の提供がしやすいのは、②-1のDX研修ではないかと思います。DXの定義がある程度広いため1つの汎用的な研修教材で多くの企業様をカバーできるということと、皆さま自身も様々にDXに取り組んでいらっしゃるであろうため、研修教材を開発しやすいことがその理由です。
①は、研修受講企業が取り組もうとしている新規事業に合わせて研修をカスタマイズして開発する必要があるため手間が掛かる、②-2のGXは、工場などに勤務される方に向けた教材は作りやすいものの、研修受講者の大半を占めるであろうオフィスワーカー向けの研修教材が作りづらい、10時間以上もの動画を作るだけの材料を揃えるのが難しい、という理由から、すでにこれらの領域のノウハウを十分にお持ちの方以外は取り組みづらいのではないかと考えます。
つまりまとめると、
「人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースに対応した、DXに関する知識を習得するためのeラーニング研修動画を、10時間分制作して提供する」のが最もオススメ、ということになります。
eラーニング研修動画を配信するシステム(LMS)の選び方
DXのeラーニング研修を提供する場合、動画ファイルを受講者に渡して見てもらうのではダメで、受講者が10時間以上研修を受講したかどうかを記録できるLMS(Learning Management System:学習管理システム)に載せた形で提供をする必要があります。
事業展開等リスキリング支援コースの詳細版パンフレットの中には、eラーニング研修の要件として「LMS」という言葉が5ヶ所登場します。それらをまとめると、本助成金に対応するLMSの要件は以下のようになります。
- 10時間以上のeラーニング動画を登録できること
- 登録された動画の長さが合計10時間以上であることが分かる必要がある。
- 確認テストの受験時間はカウントされないため考慮しなくてよい。
- 受講期間を1ヶ月以上に設定できること
- 受講開始日から1ヶ月間(31日)以上受講できる必要がある
- 受講者ごとの訓練修了日が分かること
- eラーニングを受講完了した日が記録されている必要がある
- 複数の動画がある場合は、動画ごとに完了日が記録される必要がある
- 受講者ごとの訓練の進捗率または進捗状況が分かること
- 受講が完了したことが分かることが重要
- すべての動画について、受講完了していることが記録される必要がある
- 受講時間(=動画視聴時間)が記録されている必要もある
- 受講者ごとに修了証が発行されること
- eラーニングが受講完了になると修了証が発行され、それをダウンロードして提出することができる必要がある
- 受講完了しなければ修了証が発行されないシステムであることが重要
これらの機能を持ったLMSを選定することと合わせて、LMSを提供しているベンダーが本助成金に関して十分な知識があるかも確認することが重要です。受講者から助成金の申請に関して質問があった際に、助成金の趣旨に沿った回答や対応ができないと、結果的に助成金が下りないことにもなりかねないからです。
弊社の「Qualif」Qualif(クオリフ) | オンライン学習講座販売プラットフォームは、助成金の機能要件を満たしているとともに、事前事後の申請に関するアドバイスを差し上げることも可能です。
助成金に対応したeラーニング研修事業立ち上げの流れをステップで理解
人材開発支援助成金・事業展開等リスキリング支援コースに対応した、DX知識習得のeラーニング研修事業を立ち上げるには、以下のステップで進めていくことになります。
1.eラーニング研修の企画・構成を考える
10時間以上のDXに関するeラーニングの企画を行い、研修の構成や目次を考えます。
前の項で、DXに関する研修は作りやすいと書きましたが、それ故に世の中に一般的/汎用的なDXのeラーニングが溢れているのも事実です。顧客の立場に立って考えると、一般的な内容のDXのeラーニングであれば、ITのプロの会社から買いたいと考えるはずです。マイクロソフトやグーグルなどの。そのハードルを越えて、顧客が御社からDXのeラーニングを買いたいと考えてくれるためには、どのような内容のeラーニング研修にするべきなのかを、自社の得意領域と組み合わせたりしながら考えていく必要があります。

「eラーニングコンテンツ内製化」徹底解説シリーズ ①/5 ~社内ですぐに始められる失敗しない段取りとは?~
本記事ではeラーニングコンテンツを内製化する方法のうち、企画・設計段階の作業について詳しく説明します。
2.eラーニングの原稿(PowerPointスライド&ナレーション原稿)を作成する
eラーニング研修動画を作るためには、画面に表示するPowerPointのスライドや、ナレーションで読み上げる原稿が必要となります。
研修の企画・構成を自社でしっかりと固めることができていれば、これらの原稿自体は必ずしも内製する必要はなく、適宜外部のプロの力を借りるなどしてスピード感重視で進めていくのが良いでしょう。
(後述するように、本助成事業の実施期間が限られているため、早く事業を開始することを重視すべきと考えます)
3.eラーニングの動画を制作する
PowerPointスライドとナレーション原稿をオーサリング(=スライドとナレーションが同期して動くようにすること)して、動画ファイルを完成させます。
動画を作成するにはいくつかの方法があります。自社で内製して制作する場合は、「eラーニングコンテンツの作成を内製化!継続的にできる4つの方法」の記事を参考にして取り組んでみてください。
ここも時間重視で外部のプロに依頼するのも有効だと思いますので、費用対効果を考えながら方針を検討してください。
4.LMSの選定
前述した、助成金の機能要件を満たしたLMSを選定します。
5.LMSでの配信設定
選定したLMSにeラーニング動画を載せて、配信の設定を行います。
これら5つのステップで準備を進めていく場合のスケジュール感は、大まかには以下のように4ヶ月間ほどの準備期間が必要になると考えられます。
本助成金は、2026年度いっぱいまで(2027年3月まで)の期間限定で実施されることになっており、2025年5月から準備を始めた場合、事業を実施できる期間は19ヶ月間ということになります。

助成金の期間が決まっているため、1日でも早く事業を開始して、1日でも長く事業を実施できた方が売上のアップにつながることは言うまでもありません。本記事を参考にeラーニング事業の立ち上げに取り組まれる企業様が増え、ひいては日本企業の競争力強化につながっていけば幸いです。
弊社では、助成金の機能要件に対応したLMS「Qualif(クオリフ)」の提供だけにとどまらず、教材設計のアドバイスからコンテンツ制作、LMS運用の受託までをトータルでサポートしています。また、単なるシステム屋ではなく、貴社の施策の成功のためのパートナーとして、eラーニングビジネスを成功させるための様々なノウハウをご提供しています。
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