LMとは、eラーニングの実施・運用に必要な機能を備えた管理システムのことで、「学習管理システム」(Learning Management System)とも呼ばれています。eラーニングコンテンツの作成、配信、受講者の管理、組織の管理、受講の進捗状況の管理までを一元的に行えることが特徴で、学校や企業といった多くの法人で利用されており、eラーニングの実施を支える重要な役割を担っています。
本記事では法人向け(企業向け)LMSの基本機能、応用機能について理解することで、LMSをさらに上手に使いこなすことができます。詳しく見ていきましょう。
法人向けLMSの基本機能とは
LMSには、受講者向けの「受講機能」と、管理者向けの「管理機能」があります。社内でeラーニングを実施する場合ですと、eラーニングコンテンツを受講する社員が受講機能を利用し、eラーニングを準備する人事部や情報システム部などの担当者が管理機能を利用することになります。
それぞれについて、まず基本的な機能を紹介します。
法人向けLMS 受講機能の基本
LMSにログインする
LMSを使う最初のステップは、受講者がIDとパスワードでシステムにログインして自分専用のトップ画面にアクセスすることです。受講者一人ひとりの学習履歴を記録するために、全員に一意のIDが割り当てられ、LMSにログインして利用する必要があります。IDには、メールアドレスや社員番号などの社員を識別できるものを使うケースがほとんどです。
また、企業で利用する場合には、社内にすでにある認証システムとのシングルサインオン(Single Sign On:SSO)ができるように設定するケースもあります。SSOを設定すると、LMSにログインするために毎回IDとパスワードを入力する必要がなくなり、受講者の手間を減らすことができます。
LMSへのアクセスは毎日頻繁に行うものでもない(もちろん毎日アクセスして学習するのが望ましいのではありますが...)ため、いざログインしようとするとパスワードを忘れてしまっており、再設定するのも面倒なので学習するのを止めてしまう、ということが起こり得ます。SSOの設定がされているとパスワード忘れが発生しなくなり、受講者の学習を妨げる原因を1つ減らし、学習管理システムとしての定着を促すことにもつながります。
LMSのトップ画面でeラーニングコースが表示される
LMSにログインした後のトップ画面には、その受講者が受講できるeラーニングコースが一覧で表示されます。最近のLMSはYoutubeやNetflixのように、eラーニングコースのサムネイル画像がパネルの形で表示されるものが増えています。
また、トップページに表示するコースは設定で変更できるようになっているLMSが多く、以下のようなコースを表示できます。
・管理者が受講者に対して割り当てたコース
・受講中のコース
・受講期限の近いコース
・人気のあるコース
・オススメのコース
・属性の近い受講者が受講しているコース 等
最近は、受講履歴等の情報を元にお薦めのコースを自動的にレコメンドする機能を持ったLMSも増えてきており、学習管理システムとして、受講者にいかにして学んでもらうかを各LMSが競っています。
eラーニングコースを受講する
コースを選択し、目次に沿ってeラーニングコースを受講します。動画、確認テスト、アンケートなどを順番に受講し、すべての項目の受講や回答が完了すると、そのコース全体が受講完了となります。
eラーニングコースに含めることができるものは、基本的にはWebブラウザ上で動作するものであれば何でも大丈夫です。よく使われるものとしては以下のようなものがあります。
・動画(実写)
・動画(アニメ)
・確認テスト
・アンケート
・PDF
・Scormコンテンツ
・オンラインライブ研修(Zoom、Teams、Google Meetなど)
・Youtube、Vimeo等の外部の動画配信サイト
・レポート提出
・VR、AR
受講履歴が自動的にLMSシステムに記録される
受講者がeラーニングを進めるに従い、受講状況がLMSのデータベースに自動的に記録されていきます。受講中のコースの続きから学習したり、テストで間違えた問題を復習したりと、受講履歴から自分の学習速度や理解度を把握し、今後の学習の目標設定に役立てることができます。受講者の学習履歴がデータとして蓄積され、それが学習講座の改善にもつながります。学習管理システムとしての隠れた重要機能です。
法人向けLMS 管理機能の基本
eラーニングコースを作成する機能(コース管理機能)
LMSでは、管理者が研修カリキュラムやeラーニングの学習コースを作成できます。動画やアニメーション、テキスト、確認テスト、アンケートなどを研修内容に応じて組み合わせて、1つのeラーニング学習コースにします。
学習コースの作成にあたっては、「インストラクショナルデザイン」と呼ばれる教材設計技法を取り入れて、コース全体の構成を設計することが重要です。
企業における人材育成は、学校教育と比較すると、研修受講者の属性の違い、つまり、年齢や国籍、所属する組織、行っている仕事などの違いが非常に大きいという特徴があります。そのために、同じeラーニング研修を受講する受講者同士のスキルや知識の差が大きいことがあります。
集合研修であれば、研修講師が受講者の反応を見ながら話す内容を柔軟に変更するといった対応も可能ですが、eラーニングの場合はそうもいきません。コンテンツを作る際に、そのコンテンツを受講するための前提条件・前提知識と、そのコンテンツを受講することで得られる知識・ゴールとをしっかりと設計してから作成を行う必要があります。そのための技法がインストラクショナルデザインです。
受講者を管理する機能(受講者管理機能)
受講者の情報を登録・編集・削除する機能です。
eラーニングを受講するだけであれば、氏名とメールアドレスだけあれば足りますが、受講者をグループ分けしてそれぞれのグループに対して受講してもらいたい学習コースを紐付けたり、グループごとの受講進捗率を確認したりといった複雑なことを行うためには、受講者をグルーピングするのに必要なだけの属性情報を学習管理システム内で保持しておく必要が出てきます。
具体的には、LMSの中で以下のような属性情報をシステムに持たせるケースが多いです。
・年齢
・入社年次
・勤続年数
・所属組織
・職種
・役職
・担当業務
・保有資格
・保有スキル 等
組織を管理する機能(組織管理機能)
企業内の組織階層を登録し、受講者を所属組織単位で管理する機能です。大企業だと組織数が1000以上、階層数が5階層以上になることもあるため、LMSに登録できる組織数の上限をあらかじめ確認しておくことが重要となります。
各組織には管理者(上長)を設定して、部下の学習進捗状況を管理することができます。これも、1つの組織に何人まで管理者を置けるかと、管理者を設定する手順が複雑過ぎないかを確認しておく必要があります。
また、組織とは別に、組織横断のグループを作成することもできます。2024年新入社員グループ、課長グループ、PMBOK資格保有者グループなどをLMS内で作成し、そのグループに対して学習コースを割り当てることも可能です。
eラーニングコースを受講者に割り当てる機能(受講割当機能)
管理者が受講者に対してeラーニングコースを受講できるように割当設定を行う機能です。
例えば新入社員に対しては基本的なビジネスマナーのコースを、中堅社員に対してはリーダーシップ研修コースを割り当てるなど、対象者ごとに最適なカリキュラムを受講できるようにLMSで設定します。
受講割当を行う際には、受講の開始日・終了日を設定することもできます。
受講履歴を管理する機能(履歴管理機能)
受講者の受講の進捗状況を、LMSの管理画面でリアルタイムで確認し、分析するための機能です。受講者ごとの学習の進み具合や、テストの得点、アンケートの回答、レポートの回収状況などをシステム上で把握できます。また、これらのデータはExcelファイルなどの形式でエクスポートできます。
管理者はこれらのデータから学習者の理解度を客観的に把握し、学習教材の改善などに役立てることができます。
受講者に対するコミュニケーション(お知らせ・メール)機能
LMSから受講者に対してお知らせやリマインドメールを送信できます。例えば、受講開始日の前日に準備を促したり、受講期限が近づいてきたときに学習を促したりすれば、受講者の学習モチベーション維持につながり、計画的な学習を促進することができるでしょう。
また、フォーラム・掲示板やチャット機能など受講者と講師がコミュニケーションを取れる機能がシステムに備わっていれば、質問やフィードバックを気軽に行え、学習効果を高められます。
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法人向けLMSの応用機能とは
ここまで見てきた基本的な機能を備えるLMS製品は数多くありますが、今後はAI技術などを活用して、LMSの機能や役割を広げていくことが求められるでしょう。機能開発を継続して応用機能を充実させ、大人数に対して高度な学習体験を提供できるLMSと、基本的な機能を安価に提供するだけのLMSとに、学習管理システムが二極化していくと予想されます。
受講機能の応用
顔認証等を活用した本人確認の厳格化
資格取得のための認定試験や、昇進昇格に関わる社内の試験など、より厳格な本人確認が必要となる学習にLMSを利用するためには、LMSへのログイン時の本人認証をID・PWだけで行うのでは機能不足です。メールやSMSを利用する二要素認証でもまだ足りず、ログイン時に本人が端末の前にいたことを証明するためには、少なくとも顔認証がシステムに必要です。
もっとも、ログインした後で受験者がすり替わったのでは意味がないため、試験中も端末のカメラから受験者の顔を照合する機能も必要でしょう。また、カンニングを防ぐためには、受験者の表情や目線、動作を自動的に認識する機能も有効と考えられます。
試験の内容も変える必要があります。カンニングで簡単に解ける問題というのは、知識を問うている問題です。ビジネスにおいては記憶力よりも思考力こそが重要であることを鑑みても、これらの資格試験も記憶力よりも考える力を問う問題に変えていく必要があるでしょう。
などと考えていたところに、昨今の生成AIの波がやってきました。問題文を生成AIに流し込めば、指定した文字数で瞬時に解答を返してくれます。パソコンを使って試験をする以上、その場で生成AIを使って解答されてしまうことを防ぐ必要があります。システムで通信データを監視するのかどうするのか…悩ましいところです…
AIによるコースのレコメンド機能
受講者に対して学習コースをレコメンドする機能も、AIを使っての機能強化が可能です。
これまでのLMSのレコメンド機能は、受講履歴から導き出されたものがほとんどでした。「このコースを受講している人はこちらのコースも受講しています」という、Amazon等のECサイトでよくあるパターンです。Amazonのように膨大なデータ・ビッグデータの裏付けがあれば有効に動作しますが、社内のeラーニングシステム程度のデータ量から導き出されるのは、「全社員必須受講のセキュリティ研修を受講している人は、全社員必須受講のコンプライアンス研修を受講しています」という笑えない結果になることもしばしばでした。
この落とし穴から抜け出すには、「自社内の受講履歴データ」や「その受講者の過去の受講履歴データ」だけを分析していても足りなくて、ここにどのようなデータを掛け合わせて分析するかがカギになると考えられます。「社外の受講履歴データ」かもしれませんし、「自社内の別の人事関連データ」かもしれません。営業活動のログ、お客様とのオンラインミーティングの録画、携帯電話のGPSの移動記録、、、ビジネスの中で生成されるあらゆるデータが人材の育成につながる可能性があります。一人ひとりにあった学習のレコメンド、すなわち、アダプティブラーニングを実現するための試行錯誤が続いていくでしょう。
精緻な受講履歴データの取得
精緻な受講履歴データを取得することに加えて、受講者の受講中の行動履歴データを取ることがポイントになると考えます。動画を見た、テストに合格した、だけではなくて、動画を見ている最中にどういう行動を取ったのか、テストを解いている間にどういう試行錯誤をしたのかなど、結果だけをみるのではなくてプロセスを追いかけることで、その受講者にあった学習を提供できる可能性があります。
さらには、前項で触れたようなLMSの外の履歴データも重要になる可能性があります。どのようなデータを取るべきかは今後も継続して検討をしていく必要があるでしょう。
管理機能の応用
教材の自動生成
生成AIを利用すると、
・PowerPointスライドを作成する
・スライドを説明するナレーション原稿を作成する
・ナレーション原稿から音声合成でナレーションの音声を作成する
・音声に合わせて口や身体が動くアバターを作成する
・スライドと音声とアバターが同期した動画ファイルを作成する
ここまでのことすでには自動で行うことができます。
今後この生成AIの性能がますます向上していくと、ビジネスの基礎スキルのような一般的な内容を学ぶためのeラーニングコンテンツは、完全に自動的に生成されるようになるでしょう。1日100コンテンツを自動的に生成するシステムやサービスというようなものも出てくるでしょう。すでにあるかもしれません。
そうなると、人が作るコンテンツはどういうものになるのか。AIがまだ知らない、その人独自の経験や知見に基づいたコンテンツということになるでしょう。もっとも、独自のコンテンツを作る作業にもAIを活用していくと、いずれはAIが知らないことはなくなるのかもしれませんが。
生成AIによるコンテンツ作成が本格化すると、LMSにはこれまでとは桁違いの数のコンテンツが載ってくることになります。そのときに、受講者の学習を妨げないようにする、逆に学習を促進できるようにするために、学習管理システムとしてLMSに求められる役割とは何なのかを突き詰めていく必要があるでしょう。
高度な受講履歴分析(ダッシュボード、AI、BI)
コンテンツの数が増え、受講者の受講履歴・行動履歴が細かく取れるようになると、それらを分析するための材料・データは豊富にそろった状態と言えます。また、分析のためのツールもすでに豊富にあります。
ポイントになるのは、それらのデータを何のために分析するのかという、分析の目的の設定にあると言えます。それは言い換えると、eラーニングを活用した人材育成の目的が何であるかということと同義です。人材育成の目的は7割くらいが各社共通で、残り3割くらいが各社ごとの独自性が出ると考えると、受講履歴分析機能も7割くらいはあらかじめ用意された分析結果を見つつ、3割くらいは各社ごとにカスタマイズできるシステムがベストと考えます。
インテリジェントなメール通知機能~行動経済学がヒントに
受講者のモチベーションを維持し、学習を継続させるためにLMSができることとして、受講者に対するメール・SMS・チャット・お知らせ等を使った通知機能があります。
外資系の重厚長大なLMSの中には自動通知メールが500種類以上用意されているものもありますが、実際に使うのは10種類程度であったりします。99%のメールは使われていない、つまり送信する意味がないメールと見なされていることになります。現状のLMSが学習を「管理」することを目的としてしまっており、通知メールも学習を「督促」するためのものになっていまっているため、受講者側からも嫌われ、管理社側も送ることを躊躇する、そんな悪循環になっているように思われます。
どのようなタイミングでどのような通知を送ると学習の継続につながるのかを考える際のヒントになるのが「行動経済学」ではないかと考えています。行動経済学は、今世紀に入ってから創設された新しい分野です。人間の合理的な行動を前提とした従来の経済学と違い、人間心理を追求し、心理学の理論を加味しながらその行動を研究する学問です。受講が滞っている学習者に対して、その心理状態をAI、BIを活用して分析し、受講者ごとに最適なタイミングと内容で学習を促す通知を届る、そのような仕組みが作れるのではないかと考えています。
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法人向けLMSが拓く未来
LMSは、学習を管理するツールとしてだけでなく、組織全体の成長を促進する戦略的なプラットフォームへと進化する必要があります。そのためにクオーク株式会社では法人向けのクラウド型eラーニングプラットフォーム「Qualif(クオリフ)」の開発を進めています。
開発の進捗などは随時公開していきます。ご期待ください。
法人向けクラウド型LMS『クオリフ』の詳細資料はこちらからダウンロードしてください。