2025年に向けた企業向けeラーニング市場の動向

「eラーラング白書2003/2004」((株)オーム社)によれば、日本では一般に2000年がeラーニング元年とされています。およそ四半世紀前に産声を上げたeラーニングは当初は順調に成長しました。2010年代後半には一旦その伸び率は鈍化しますが、コロナ禍をきっかけに在宅ワークが定着したことから、2020年からは再び成長傾向を見せています。

そんなeラーニング市場の過去から現在までの状況、そしてこの先の展望を詳しく見ていきましょう。

目次

企業向け研修市場の動向 ~コロナ禍以前を超える規模に

eラーニングを含む企業向け研修サービス全体の市場規模は、2015年度の4,970億円から2019年度の5,270億円と、5年間で300億円(6%)の微増、つまりほぼ成長していませんでした。2020年度はコロナの影響で4,820億円と、前年から450億円(8.5%)の大幅減となりましたが、2021年度からは回復傾向を見せ、2024年度には5,800億円と、コロナ禍以前を超えると予測されています。

出典:矢野経済研究所調べ
企業向け研修サービス市場に関する調査を実施(2024年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

その中のeラーニングもコロナ禍をきっかけに伸び、研修市場全体に占めるeラーニングの割合は、2019年度の12.9%から2024年度の20.2%へと大きく増加しています。eラーニング市場規模の推移をもう少し細かく見ていきましょう。

eラーニング市場の動向 ~2020年代に鈍化した訳

  • 2000年代

日本でeラーニングという言葉が認知されるようになったのは2000年頃からです。きっかけのひとつになったのは、2000年に当時の森内閣が掲げた「e-Japan戦略」でした。

これは「すべての国民が情報通信技術を活用できる日本型IT社会を実現する」として掲げられた構想です。この構想を具体化する計画のうちの一分野が「教育及び学習の振興並びに人材育成」であり、実現のために政府はIT環境の整備に力を入れ始めました。

インターネット環境が整うにつれて、教育現場ではオンライン学習が徐々に導入され始めます。eラーニングビジネスは着実に進展を遂げ、当時発行された「eラーニング白書2002/2003」((株)オーム社)では、NTTデータ経営研究所が「eラーニング潜在マーケット規模を算出し、遅くとも2010年には1兆円市場に達する」との試算を発表しています。また、「eラーニング白書2007/2008」(東京電機大学出版局)では年15%程度で伸びていくと予測されるなど、eラーニング市場の将来性が高く評価されていた時期でした。

  • 2010年代前半

高速インターネットの普及により、動画コンテンツを利用する動画学習がeラーニングの中心となっていきました。スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを使って学習する「モバイルラーニング」や、学習者同士のコミュニケーションが重要だとする「ソーシャルラーニング」などの新しいコンセプトのサービスも生まれ、eラーニング市場は着実な拡大を見せます。

さらにこの頃には、LMS(Learning Management System:学習管理システム)が大企業を中心に普及していきました。LMSは、学習コンテンツや受講者を管理できるシステムで、社員の誰がどの講座を受講したのかを簡単に把握できることから、企業の人事部門が中心となって導入が進みました。LMSの活用により、学習の履歴を正確に取得できるようになり、法定の研修などの「必須受講の研修」へのeラーニングの利用が広がったことで、eラーニング市場の成長に拍車をかけました。

  • 2010年代後半~2020年代

ところが2010年代後半に入る頃には、市場の成長はピタリと止まります。

それまでのeラーニング市場の拡大要因は、対面型の研修がeラーニングに置き換えられていったことに因るものであり、一定の割合が置き換わった時点で頭打ちになってしまったのです。

eラーニングを導入した企業にも、eラーニングは対面研修の代わり、もっと言葉を選ばずにいうと、対面研修の劣化版という意識があり、本当は対面研修で実施したいがコストの問題などがあって仕方なくeラーニングで実施しているケースもあるなど、eラーニングならではの価値を発揮できていなかったことも、利用が一定以上伸びなかった原因でした。

コンテンツ自体の問題点も見えてきました。eラーニングが普及し始めた当初は、コンテンツにインタラクティブな仕掛けを盛り込んだ手の込んだコンテンツを作ることが多かったのが、インターネットで動画を視聴することが一般的になった影響から、動画を見るだけのeラーニングコンテンツが増えていきました。また、TikTokに代表される短尺の動画の盛り上がりを受けて数十秒~数分の短い動画で学習を行う「マイクロラーニング」も出てきますが、本来の目的が伝わりきらずに短い動画であればよいと誤解されたまま広まりきらずに今に至っています。

注1.提供事業者売上高ベース 注2.2023年度は見込値、2024年度は予測値
出典:矢野経済研究所調べ
(矢野経済研究所 eラーニング市場に関する調査2024年)

eラーニング市場の今後の展望

今後のeラーニング市場はどうなるでしょうか。コロナ禍を機に起きた集合型研修のeラーニング研修へのシフトが一段落し、市場の成長は明らかに鈍化してきました。2019年から2022年にかけては3年連続で100億円以上の伸びであったのが、2022年から2023年は65億円、2023年から2024年は30億円ほどの伸びにとどまっています。この先はおそらくコロナ禍以前のような低成長の市場に戻るでしょう。

そう考える理由は3つあります。

1つ目は、LMSの機能がもう何年も進歩していないことです。2019年からのeラーニング市場の伸びは、コロナ禍という外的要因によって引き起こされたもので、LMSの機能進化という内的要因が引き起こしたものではありませんでした。コロナ禍以前にはeラーニングを使っていなかった企業が、コロナによって仕方なくeラーニングを始めたものの、eラーニング自体が以前と同じものだと感じてしまえば継続して使っていただける可能性は低いでしょう。

2つ目はコンテンツの質の問題です。前述のように、コンテンツの作り方がお手軽に流れすぎているあまり、学習効果が低いものになっている可能性があり、集合研修の方が良いと判断される可能性があります。加えて、いまだにeラーニングは企業の人事部や人材育成部などの一部の部署が「管理」して、社員に対して受講させているケースが多く、ビジネスの変化のスピードについていけなくなっています。管理部門が現場のビジネスや現場で求められるスキルを把握し切れていないが故に、一般的な内容のコンテンツしか用意できず、受講者側の社員からは受ける意味がないと判断されてしまっている、そのような状況ではeラーニングの利用は伸びないでしょう。

3つ目は、eラーニング業界が停滞している間に、様々なシステムにラーニング機能が付加されるようになってきており、LMSを単体で利用する必要性が低下する可能性があります。例えば、人事システムやタレントマネジメントシステム、また一部のSFAやCRMにも簡易的なラーニング機能がついていることもあり、eラーニングベンダーがLMSの機能やコンテンツを磨き上げていかないと、この波に飲み込まれていく可能性があります。

一方で、eラーニング市場にとって明るい材料も見られます。

現在、経済産業省は、企業のDXやリスキリング推進施策として、環境整備や補助金の充実に力を入れています。2022年末には政府のリスキリング支援に充てる予算として、今後5年間で1兆円という大規模な投資が計画されました。人的資本経営も注目を集めており、2023年からは大企業は人的資本の情報開示が求められるようになりました。ビジネス環境の変化により、DXやAIをはじめとした新しい領域の研修も必須となっています。知識の習得方法としてeラーニングを志向する需要は高まる傾向にあり、eラーニングベンダーが先に挙げた3つの逆風を克服してニーズに対応できていけば、eラーニング市場は今後、再び伸びていく可能性があります。

Qualif(クオリフ)の強みと未来 ~なぜいま新しいLMSなのか

弊社で新しいeラーニングプラットフォーム「クオリフ」の開発を進めているのは、LMSの進化が止まってしまっている状況を打破したいと考えたからです。

20年以上にわたってeラーニングに取り組んできたクオークのメンバーの知見を活かして、以下のような特徴を持つLMSを開発しています。

  • 学習を「管理」するという発想の逆を行く
  • 学ぶべき知は現場にこそある
  • 学習が継続できる
  • LMS上での作業を徹底的に自動化する

eラーニングはこの四半世紀である程度の普及を果たしましたが、この先もユーザを獲得し利用してもらうには、eラーニング自体が進化していく必要があります。開発努力を怠るLMSベンダーやコンテンツベンダーは、やがて確実に淘汰されていくでしょう。開発の進捗などは随時公開していきます。ご期待ください。

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この記事を書いた人

クオーク株式会社 代表
教育系出版社(現ベネッセ)、IBM等を経て、NTTドコモと電通の合弁会社である(株)D2Cにて企業向けeラーニング事業を立ち上げる。その事業のアルー(株)へのバイアウト後の2021年に起業し、クオークを設立。
企業向けのeラーニングビジネスに20年以上携わり、その知識と経験を活かしてQualifを開発中。

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