2025年7月、OpenAIがChatGPTに追加した新機能「Study Mode(学習モード)」が、教育関係者やeラーニング業界で大きな注目を集めています。
ChatGPTといえば、質問すれば答えを返す便利なAIツールというイメージが強いですが、この学習モードはまったく異なる価値を提供します。それは「答えを教えるAI」から「一緒に考え、学びを深めるAI」への進化です。
今、多くの学習者が求めているのは、受け身ではない、自分に最適化された学び──つまり、個別最適化されたeラーニング体験です。この「個別最適」というキーワードは、文科省の学習指導要領にも登場し、研修業界にとどまらず、義務教育からリスキリングまで、幅広い分野で注目されています。ChatGPTの学習モードは、まさにそのニーズに応える機能として登場しました。
ChatGPTの学習モードとは?AIによる能動的な学びのサポート
ChatGPTの学習モードは、ユーザーに一方的に答えを提示するのではなく、対話を通じて思考を引き出し、理解を深めるAI学習支援機能です。
たとえば、以下のような対話が行われます。
ユーザー:「2Lの水を3人で等しく分けるにはどうすればいい?」
ChatGPT(学習モード):「まず、2リットルは何ミリリットルですか?それを3人で分けるには、どう考えれば良いでしょう?」
このように、段階的な問いかけを通じて、ユーザー自身が答えにたどり着けるよう導くことが、このモードの最大の特長です。
これは単なるチャットツールではなく、AIを活用した探究型のeラーニングとも言えます。
なぜ個別最適化が可能なのか?
ChatGPTの学習モードが個別最適化された学習を可能にする要素には、以下の3つがあります。
- ソクラテス式の問いかけで思考を深める
「どうしてそう考えたのか?」「別の視点からも考えてみようか?」などの対話が、自分の考えを言語化しながら深める学習体験を支援します。これは、AIによる指導でありながら、人間の家庭教師に近い学習支援といえます。 - 理解度に応じた回答のカスタマイズ
ChatGPTはユーザーの反応から理解度を推測し、基礎から応用まで、必要に応じて情報を出し分けることができます。これにより、学習者のレベルにあった最適な指導が可能になります。 - 継続学習と復習の支援
記憶機能を使えば、過去の対話内容をふまえて「前回のつまずきポイント」や「復習したい内容」にフォーカスしたアプローチが可能です。これはまさに、個別最適化eラーニングの本質です。
特に1のソクラテス式の問いかけは分かりやすいものです。教育界で古くから重要視されているソクラテス式問答法を取り入れることで、古代ギリシャの哲学者ソクラテスが用いた、対話を通じて相手に自ら考えさせる手法をAIがやってくれるのです。
教える側にもメリット!eラーニング教材制作者の新しい相棒
実は、ChatGPTの学習モードは、学習者だけでなく、eラーニング教材を作成する立場の人にとっても強力なパートナーになります。
教材コンテンツの構成検討に学習モードを
教材制作時、「どの順番で教えると理解しやすいか?」という設計は非常に重要です。
ChatGPTの学習モードに説明対象のトピックを伝えると、「初心者にどう教えるべきか」という観点で、段階的に説明する流れを提案してくれます。例えば以下のような例です。
ユーザー:「私は一般職員です。サイバー防災とは何ですか?」
ChatGPT(学習モード):「まず防災と減災の違いを日常生活の例で考えてみて。次にサイバー犯罪との現状を考えましょう…」
このように、理解プロセスに沿った構成案をAIと一緒に考えることが可能です。
確認テスト・小テストの設問作成にも学習モードで
eラーニング教材に欠かせない確認テストや復習問題の作成にも、学習モードは役立ちます。説明文やスライドの内容をもとに、「内容理解を問う設問を5問作って」と頼めば、レベルに応じた問題と正解候補・解説まで提示してくれます。
AIを「出題アシスタント」として使えるのが、従来のChatGPTよりも一歩進んだポイントです。
進化するAI学習支援
OpenAIは今後、ChatGPTの学習モードに以下のようなAI教育支援機能の拡張を計画しています。
- 学習進捗の可視化機能(どこまで理解したかのトラッキング)
- ビジュアル教材との連携(図・表・アニメーションの統合)
- 科目別テンプレートの整備(英語・数学・物理など)
これにより、単なるチャットAIではなく、本格的な個別最適化したeラーニングの機能が広がります。これをLMSといった学習管理システムとつなげることで、eラーニングはより効果的そして効率的になっていくのではないでしょうか。
自分の考えで学び、試行錯誤するプロセスを大切にするこの機能は、従来型のeラーニング教材ではあまり見られない、考える力の育成にもつながります。