eラーニングにおけるデジタルバッジについての考察

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デジタルバッジは必要か

eラーニングやオンライン研修などで、学習歴を可視化する手段としてデジタルバッジが使われているのを見たことがありますか?eラーニングの現場における学習歴は重要で、何かを学習したことを認定すること自体には意味があります。それを、ブロックチェーン技術を用いたデジタルバッジとして記録することも、一つの方法として存在しうるものです。

しかしここで落ち着いて考えてみたいと思います。本当に重要なのは「学んだ中身」です。たとえば、「〇〇〇という講座を修了したこと」が記録されたとしても、その講座の内容が適切である保証がなければ、デジタルバッジ自体に大きな意味はありません。学習の証明としてバッジを発行するのであれば、その講座が一定の品質を担保していることが前提となるべきです。

「学士か」ではなく「どこの学士か」

具体的に考えてみましょう。Googleが提供しているAI講座、東京大学松尾研究室が提供しているAI講座、民間A社が提供しているAI講座――これらの価値はすべて同じでしょうか。もちろん、そうではありません。同じ「AI講座」という名称であっても、提供元の権威や内容の質によって、受講する価値やその後の評価は大きく異なります。

これは大学の学位にも通じる話です。ただ単に「学士を持っているかどうか」ではなく、「どこの大学の学士なのか」が評価のポイントです。世界には「ディプロマミル」と呼ばれる、学位を形だけ発行するような機関が多数存在しており、大学ですらそのような状況です。ましてや、民間の研修会社が提供する講座の質は玉石混交であり、講座のタイトルだけを保護したところで実質的な価値は保証できません。

結局のところ、デジタルバッジの発行によって何が保証されるのか、がポイントです。実態の伴わないバッジが乱立してしまえば、その信頼性はすぐに失われてしまいます。現状では、デジタルバッジの活用は、学習歴を示す手段としての可能性を持つ一方で、それを発行する企業や団体が「権威」を手に入れたいがための勢力争いに過ぎない側面もあるのではないでしょうか。

デジタルバッジ活用のヒントはある

ただし、デジタルバッジを使った認定制度を社内で活用する方法はあるでしょう。ちゃんと勉強した社員を表彰したり称えたりすることはとても重要です。その際のポイントは、人事評価制度と結び付けることです。たとえば、社内研修を受講し、デジタルバッジを取得した社員に対して昇進や昇給の指標として活用することが考えられます。具体的には、プログラミングスキルを習得した社員にはエンジニアの昇格要件としてバッジ取得を義務づけたり、リーダーシップ研修を修了した社員には管理職候補としての資格を与えたりする、といった仕組みが挙げられます。

このように、デジタルバッジの本当の価値を高めるためには、単なる「修了証」ではなく、その内容の質をどう保証するのかという仕組みづくりが求められます。さもなければ、バッジの多くは単なる飾りに終わり、信頼に値しないものとなってしまうでしょう。実際には実力が伴っていないにもかかわらず、バッジの数や見た目だけで判断されてしまうような風潮が広がれば、採用や登用においてミスマッチが生じる危険もあります。

eラーニングにおけるデジタルバッジ活用のための考え方

上記を踏まえ、eラーニングにおけるデジタルバッジを活用するためには、「信頼性の確保」「活用シーンの拡大」「スキル証明」の3つの考え方が必要です。

デジタルバッジの信頼性を確保する

そのデジタルバッジどのような基準で発行されているのかを明確にし、内容の品質を保証する仕組みを整えます。たとえば、講座修了だけでなく、試験合格や実技評価などのプロセスを導入します。

活用シーンの拡大

デジタルバッジの価値を社会で通用するものにする必要があります。たとえば、企業や業界団体と連携し、バッジの認知度や活用シーンを拡大するといったやり方です。業界標準の資格制度と組み合わせることで、デジタルバッジを公的な証明として活用できるようにすることも、アイデアの一つです。単なる履歴ではなくスキルの証明として使えるためには、活用シーンの拡大が欠かせません。

スキル証明

「この人はどんなことを学んだか」ではなく、「この人は何ができるのか」を示せるデジタルバッジにします。実務的な課題解決能力やプロジェクト経験を示すバッジが理想です。

デジタルバッジは使える?──企業・教育機関・個人の三者に求められる姿勢

企業に求められるのは「活用設計力」

デジタルバッジを本当に価値あるものとして機能させるためには、企業の設計力が問われます。単に研修を可視化するための証としてバッジを発行するだけでなく、「そのスキルをどう活かすか」「どのような人材配置や登用に役立てるか」といった観点が必要です。

たとえば、営業職向けに「ヒアリング力」「交渉力」「CRMツール活用」といった具体的なスキルバッジを設け、各段階で求められるスキルとのマッチ度を見ることで、異動や役職登用の根拠として活用できます。バッジを評価と育成の両面にリンクさせる仕組みづくりがカギとなります。

教育機関や研修提供者に求められるのは「第三者評価と透明性」

教育機関やeラーニング事業者がデジタルバッジを提供する際には、その講座や評価の透明性と信頼性が求められます。特に、以下のような第三者的視点の導入がデジタルバッジの価値向上に直結します。

  • カリキュラム評価委員会の設置
  • 第三者機関による監査やレビュー
  • 講座内容・難易度・合格基準の公開

バッジを公に提示できる「実力証明書」として扱うためには、内容の信頼性を誰もが確認できることが不可欠です。

学習者に求められるのは「成果と結びつけた活用」

デジタルバッジの価値を最大化するのは、取得者自身です。単に「たくさん持っている」ことではなく、「それをどう仕事に活かしたか」「どのような成果を生んだか」を語れるようにしておくことで、デジタルバッジの意義は数倍になります。

たとえば履歴書に記載するだけでなく、ポートフォリオや職務経歴書で「このスキルバッジ取得後に〇〇プロジェクトを成功させた」と具体的に紐づけることで、説得力は格段に上がります。

デジタルバッジが「共通言語」になる未来は来るのか?

将来的には、デジタルバッジが企業間・業界間・国境を超えた「スキルの共通言語」になる可能性もあります。たとえば、ある分野においては「このデジタルバッジを持っていれば即戦力」という共通認識が形成されれば、採用や人材流通のあり方そのものを変える力を持つでしょう。

そのためには、以下のような取り組みが必要です。

  • 業界団体による標準化
  • バッジプラットフォームの相互運用性の確保
  • 自治体や教育行政との連携による制度的認知

バッジの価値は、単なる技術ではなく「信頼」「実績」「仕組み」によって支えられます。このように考えると、デジタルバッジは、eラーニングにおいて学習成果を見える化する強力なツールです。しかし、その価値は自動的に生まれるものではありません。発行者・使用者・受講者の三者がそれぞれの立場で工夫を凝らすことで、初めて信頼される「スキル証明」として成立します。

デジタルバッジは魔法のように人材評価を変えるものではありません。しかし、丁寧に設計され活用されるバッジは、学びの質を高め、評価の透明性を担保し、組織の成長に貢献する可能性はあるのかもしれません。

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