第8回:失敗事例に学ぶ|生成AIコンテンツ制作で注意すべき5つの落とし穴

はじめに:生成AI活用のリスクとその必要性

これまでの連載で紹介してきた通り、生成AIを活用することで教育コンテンツ制作は劇的に効率化され、時間やコストの大幅な削減が実現可能です。しかし、AIを安易に導入すると予期せぬ問題やトラブルが発生することもあります。

今回の記事では、実際にAIを活用した教材制作の現場で起こった失敗事例をもとに、特に注意すべき5つの落とし穴を紹介します。さらに、それらのリスクを避けるためにエデュニアが実践している独自のチェック体制についても詳しく解説します。

AIの導入や活用において重要なのは、「リスクを事前に理解し、適切な対策を講じる」ことです。ぜひ本記事を参考に、皆様の教材制作プロジェクトを成功に導いてください。(執筆者:エデュニア株式会社 代表取締役 千葉佑介)

本シリーズの構成
本記事は全10本シリーズの8本目です。ぜひシリーズ全体を通してお読みください。

目次

セクション1:生成AI活用時のよくあるトラブルや失敗事例

私たちが教材制作を支援する中で遭遇した主なトラブルや失敗事例を紹介します。

①生成された情報の不正確さ

AI(特にGPT系ツール)は多くの情報を迅速に生成できますが、必ずしもすべてが正確とは限りません。特に数値や技術用語において誤った情報が混入したケースがあります。

実際の事例:
ある企業向けIT研修資料においてAI情報をそのまま使用したところ、特定の技術バージョン番号が古く、受講者からクレームが発生しました。

②内容の重複や不自然な繰り返し

AIが生成した文章は時折、同じような表現を繰り返すことがあります。これにより、コンテンツの質が低下し学習意欲が阻害される可能性があります。

実際の事例:
自治体向け研修でAIに依存した結果、各セクションが似た内容になり、「どの章も同じ話を聞いているようだ」と指摘を受けました。

③著作権・知的財産権の侵害リスク

AIが学習した膨大な情報の影響で、意図せず著作権侵害にあたる類似コンテンツが生成されるリスクがあります。

実際の事例:
過去に制作したスライド資料が著名書籍の図版に酷似していたことが判明し、大幅な修正作業が必要になりました。

④文脈や教育的配慮の不足

AIは完全に文脈や教育的意図を理解するわけではないため、不適切な表現が生成される場合があります。

実際の事例:
企業のコンプライアンス研修において、生成された例文がコンプライアンス違反を推奨するようにも受け取れる内容となり、全面修正が必要になりました。

⑤制作物の品質のばらつき

AI任せの制作は品質管理が困難になり、クオリティに大きなばらつきが出ることがあります。

実際の事例:
短期間に大量の教材を制作した際、品質のばらつきが顕著になり、特定の教材の評価が大きく下がりました。

セクション2:品質・著作権・情報精度への注意点と解決策

トラブルを防ぐため、以下のような注意点と対策が重要になります。

①情報の信頼性確保の徹底

  • 専門的知識を持つスタッフによるクロスチェックを行う
  • 外部の信頼できる情報源とAIの生成情報を照合するプロセスを構築する

②表現重複を防ぐ編集工程の導入

  • 人間による精査を必須とし、重複や冗長な表現を削除する編集工程を設ける
  • AIに指示するプロンプトを多様で明確に設計する

③著作権リスク管理の強化

  • AI生成コンテンツに対する著作権専門の確認工程を導入する
  • 著作権フリーな情報源を指定したプロンプトを活用する

④教育的配慮を考慮した指示設計

  • AIに対して教育目的を明確に提示する
  • デリケートな内容に関しては、人間の指示を具体化しAI依存度を下げる

⑤品質担保体制の確立

  • 教材制作に明確な品質基準を設け、全員で共有する
  • 定期的な内部レビューを通じてばらつきを防止する

セクション3:トラブルを未然に防ぐチェック体制の構築

生成AIのリスクを避けるためには以下のようなチェック体制が必要です。もちろんどこまでやるかは成果物の重要度や適用範囲によって決めるべきですが、理想形としてご確認頂ければと思います。

①二段階精査体制

  • AI生成直後の一次精査と最終成果物の二次精査を実施し、品質を二重に確認する
  • 異なる担当者が多角的視点でチェックを行うことで客観性を確保する

②AI利用ガイドライン策定と運用

  • AI利用時の明確なルールを策定し、スタッフ全員で理解・共有する
  • 定期的なフィードバックを通じてガイドラインを改善する

③著作権専門チームによる精査

  • 知財専門スタッフが生成後コンテンツを必ず確認し、著作権侵害リスクを排除する

④教育的視点でのレビュー体制

  • インストラクショナルデザインの専門家が教育的観点から内容の適切性を審査する

おわりに:リスクを理解し、AIを活かしたコンテンツ制作を

生成AIを活用した教材制作では、リスクを理解し適切なプロセスを構築することで、より高品質な教育コンテンツを効率的に制作できます。エデュニアでは豊富な経験と独自のチェック体制で皆様をサポートします。生成AI活用に不安を感じている方は、ぜひ私たちにご相談ください。下記のリンク先からクオークさん宛にお問い合わせをいただけましたらお返事を差し上げます。

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参考文献・引用文献一覧

  • Mayer, R. E. (2009). Multimedia Learning (2nd ed.). Cambridge University Press.
    (マルチメディア教材の設計原理や学習効果を高める教育工学の代表的理論)
  • Siemens, G., & Baker, R. S. J. d. (2012). Learning analytics and educational data mining: Towards communication and collaboration. Proceedings of the 2nd International Conference on Learning Analytics and Knowledge (LAK’12), 252-254.
    (学習データ分析とAI活用における理論と実践を扱った代表的研究)
  • Popenici, S. A., & Kerr, S. (2017). Exploring the impact of artificial intelligence on teaching and learning in higher education. Research and Practice in Technology Enhanced Learning, 12(1), 22.
    (教育分野におけるAI活用とその課題を示した論文)
  • Baker, R. S., & Inventado, P. S. (2014). Educational data mining and learning analytics. In Learning Analytics (pp. 61-75). Springer, New York, NY.
    (教育データマイニングとAI分析における手法と活用例)

著者プロフィール

千葉 佑介(ちば ゆうすけ)

エデュニア株式会社代表取締役、H&Sホールディングス株式会社最高執行責任者(「ぼくのAIアカデミー事業担当」)を勤める傍ら、岩手県立大学ソフトウェア情報学研究科博士後期課程で製造業における教育サービスのDX関連の研究に従事。

熊本大学人文社会科学研究科教授システム学専攻博士後期課程卒。富士通株式会社で大学ビジネス営業企画と事業企画に携わった後、DMG森精機と野村総合研究所の合弁組織であるテクニウム株式会社にてDX教育サービスを立上げ、経済産業省補助事業「デジタルものづくり実践講座」のプロジェクトディレクターを務めた。

その後、AIリテラシーや生成AI活用に関する講座やワークショップを多数実施すると共に、生成AIと教育工学を駆使した教材制作および教育事業のDXコンサルティングに奔走中。

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