企業のリスキリング(Reskilling) とは、従業員が新しい職務や役割に適応するために、新しいスキルや知識を習得させる取り組みのことです。急速な技術革新やデジタル化、ビジネス環境の変化によって、従来のスキルだけでは対応しきれなくなった場合に実施され、人手不足の課題とあわせて、その解決手段として注目されました。
ところが、帝国データバンクの全国調査によると、リスキリングに積極的な企業は全体の26.1%にとどまっていることがわかりました。
(株)帝国データバンクの下記調査より引用
リスキリングに関する企業の意識調査(2024年)
大企業ほどリスキリングに取り組んでいる現状
企業の規模で比較すると、大企業ほどリスキリングに活発に取り組んでおり、業種別では情報サービスや金融業界が積極的です。
取り組みの具体的な内容としては「従業員のスキルの把握」が高い割合を占め、企業側がまず従業員の現状を可視化してからリスキリングを進めていこうとしている姿勢が見えてきます。さらに実際の学習には、オンライン学習サービスが多く活用されていることがわかります。
リスキリングは人手不足の切り札か?
「人手不足解消のためのリスキリング」という観点で見ると、実は人手不足を抱える企業とそうでない企業との間で、取り組み具合に大きな差異は見られていません。政府はリスキリングを促進するために支援を拡大しているものの、企業の実際の教育現場は様々な課題を抱えており、取り組みは進んでいない現状があります。
リスキリングに取り組めない理由
消極的な企業が抱える課題は、まず対応時間が確保できないことが挙げられます。さらにリスキリングに必要なスキルやノウハウを持つ人材が不足しているために、取り組みを進めることができないのが実情です。
費用の問題もあります。政府は助成金を引き上げるなどの対策を取っていますが、受給している企業は17.5%に過ぎず、もっと使いやすくしてほしいという要望も上がっています。
積極的な企業においても、従業員のモチベーションの維持が難しいという課題が見られます。一例として派遣人材に対するリスキリング政策は、教育する側とされる側の双方にとって、モチベーション維持に支障が生じてしまいます。
学習環境やインフラの未整備も理由の一つです。学びのためのLMS(学習管理システム)や研修コンテンツが整備されていなかったり、オンライン研修の導入が遅れていたりする場合や、個人の学習支援がそもそも十分でないケースもあります。
リスキリングには経営層やリーダーのマインドが大事
これらの課題の解決に向けては、経営層やリーダーが率先してリスキリングを推進し、環境整備とモチベーションの維持に努めることが大切です。管理職やリーダーはこれまでの経験や成功事例を重視する傾向があるとも言われ、変化の必要性を感じにくく、「なぜ変える必要があるのか?」という意識が残っていることがあります。
政府もリスキリングに関する取り組みを継続しています。厚生労働省の「教育訓練給付制度」や経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を筆頭に多くの取り組みや支援制度があります。政府がその重要性を意識している中、企業としてはその制度も活用して、企業の大切な「人」へ投資することができます。
経営層やリーダー自身が変化の先頭に立つ「ロールモデル」としての意識を持ち、組織全体で学び直しを評価・支援する仕組みを作ることが重要ではないでしょうか。