「人はやる気があれば学べる」は本当でしょうか?実はそれは真実の一部にすぎません。リスキリングを目指したeラーニングを成果につなげるには、受講者の時間事情、企業側の運用設計、制度(助成金)までを一体で設計することが必要です。
当記事では、日本の最新統計と海外の知見から「続く学び」の条件を整理し、学習教材をeラーニング化して販売する企業および導入する企業が現場で実装できる形を考えます。
学びは「やる気」だけでは続かない――日本の実態
「学ぶ意欲」は確かに存在します。総務省統計局の「令和3年社会生活基本調査」によれば、過去1年に「学習・自己啓発・訓練」を行った人は39.6%。男女差は小さく、幅広い年代で上昇傾向が確認されています。
ここからは人々の間に「学びたい」という火種(意欲)が十分にあることが分かります。一方で、何を学ぶかには男女で違いが見られます。総務省の同統計によれば、男性は 「パソコンなどの情報処理」、女性は 「家政・家事」(以外かもしれません)の比率が高く、「仕事に直結する学び」が分散しやすい現実があります。
ここで起きている違いは善悪ではなく、目的の非対称です。多くの人が自分自身の興味のある分野やスキルアップできるテーマを選んで学びますが、企業側が求めるのは「この業務がこう改善される」という客観的価値です。リスキリングのためのeラーニングが「やった感」で終わってしまって効果が出にくいのは、ここが噛み合っていないときです。ここが「やる気」と「仕事へのインパクト」をつなぐ最初の段差です。
企業はリスキリングに投資。なぜ効果が上がらない時があるのか
企業側の投資や取り組みも進んでいます。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によれば、OFF-JT(職場外研修)を受講した労働者は37.0%まで伸び、自己啓発の実施も増えています。これは「学びの機会」が広がっている証拠です。
政府もリスキリングに投資しています。厚生労働省の人材開発支援助成金では、eラーニングも対象となっています。
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【令和7年度/2025年度最新版】人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コースに対応したeラーニング研修ビジネスの立ち上げ方

それでも現場で「効きづらい」のは時間設計に理由があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構による最新の個人調査を見ると、受講時間は「5〜10時間未満」が28.0%、「5時間未満」が21.0%で、約半数が10時間未満。
https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/08_09/kokunai_07.html
このことから、長尺の一括学習より短時間×高頻度に適性があることが分かります。
ここまでの流れをまとめると――学ぶ意欲はある、機会も増えている、でも時間は細切れ。この三つを同時に満たすには、「マイクロ設計×現場適用×見える評価」が一つの方法として浮かび上がってきます。
海外データが教える、リスキリングは「形式より実用」
これは日本だけの話ではありません。OECDの最新レポート(Trends in Adult Learning,2023)は、成年期の学習が「非 形式(ノンフォーマル)」中心へシフトしていると示します。OECD平均で形式的学習の参加は8%、形式的学習は37%。つまり多くの社会人は、長期の「学校型」より、仕事に直結する短期学習へ参加しています。
さらに、2018年にBersinが提唱した“Learning in the Flow of Work(仕事の流れの中の学習)”という考え方は、学習時間が細切れな現実に対応する設計思想です。同氏の調査では「従業員が週に確保できる自己研鑽の時間は平均約24分」という示唆もあり、マイクロ・オンデマンド設計の必要性を早くから指摘してきました。たったの24分は少ないですね。
引用元:
https://umujapan.co.jp/column/technology-report2/
人によってはこの状況を打開するためにスキマ時間の活用を模索しているでしょう。それによってポッドキャストなどを使った「ながら勉強」にも注目が集まっているのかもしれません。
このように、日本の数字と海外の傾向は似ています。つまり、「短時間で実務に効く」学習体験を、企業の運用と制度設計で支えることが、eラーニングを使ったリスキリングにいま必要とされています。
リスキリングのためのeラーニングが「続く・効く」ための6原則
ここからは、学び手が感じる「面白そう・役に立ちそう」という主観的な学習目的と、組織が求める「この業務がこう変わる」という客観的な事業目的のズレ=目的の非対称を埋めるための方法(原則)を考えてみます。
提示する6原則は、
- テーマを事業KPIと個人キャリアに結び直し、
- 10〜15分のマイクロ学習で現場に埋め込み、
- 修了証PDF・成績レポート・受講ログで成果を「読める化」し、
- 助成金要件を最初から織り込み、
- ナッジと伴走で離脱点を潰し、
- B2B前提の品揃えで運用まで含めて提供する
という一連の流れです。目的の非対称を解消できたとき、eラーニングを使ったリスキリングは「やった感」で終わらず、着手→定着→業務成果へとまっすぐにつながります。
なお、eラーニングは、学習管理システム(LMS)を使って効果的に実装していくことになります。以下から、eラーニング教材を販売するためのLMSについての解説記事を読むことができます。
関連記事:
「eラーニング教材を販売するためのLMSとは」~学習講座・学習コンテンツ販売・決済がポイント~

原則1|テーマを事業KPI×個人キャリアに結び直す(eラーニングの起点)
「面白そう」という主観は尊い一方、組織は「何が、どれだけ良くなるか」という客観を求めます。ここを繋ぐ起点がLMSに実装されたeラーニングのコース定義です。最初に業務課題→指標→到達基準をLMSのコース概要に明記し、学習者のキャリア理由(昇進・異動・市場価値)も同じ画面で提示します。
例:
営業のeラーニングなら、「提案書作成時間30%短縮(事業KPI)」と「評価で資料作成スキルB以上獲得(個人KPI)」を併記。到達基準は「既存テンプレから3案の骨子を20分で起こせる」などタスク文にして、LMS上でチェック項目として表記・設定します。
原則2|10〜15分のマイクロラーニングを仕事の流れに埋め込む(LMSで管理)
マイクロラーニングの形をとるため、時間は細切れとなり、通常の業務は途切れません。1回10〜15分のユニットを連作にし、「視聴→小ワーク→現場で即試す」のミニループをLMSでスケジュール配信します。
例:
月・木の始業15分に「生成AI要約→自社フォーマットへ転記→実践」のユニットをeラーニングとして公開。次回冒頭で1分のふり返りと小テストをLMS上のクイズで実施し、「わかった→できた」をその場で確認します。
原則3|修了証PDF+成績レポート+受講ログで成果を“読める化”(LMSの可視化を最大活用)
リスキリングのための学習を「やった感」で終わらせない鍵は可視化です。LMSから出力する修了証PDFには到達基準・評価方法・想定業務を明記し、上長・人事が配置やアサインの材料として読める形にします。成績レポート(テスト平均/提出状況/講師コメント要約)は1ページに集約し、受講ログ(開始・進捗・完了時刻)とともに月次ダイジェストとして自動共有。eラーニングの学習成果を、組織の意思決定で使えるデータに変換します。
原則4|助成金要件を最初から織り込み、設計を後戻りさせない(eラーニングのコース構造に反映)
eラーニングを使ったリスキリングを予算化しやすくするには、助成金の力を借りることも方法の一つです。設計の最初からOFF-JT等の要件(例:総訓練時間10時間以上、同時双方向の扱い、実績書類)をeラーニングのコース構造に落とし込みます。なお、助成金はいつまでもあるものではないため、早めの行動が望まれます。
実務では、90分×8回=約12時間をひとパッケージにして、「どの回がライブ(同時双方向)/どの回がオンデマンド」「各回の評価・証跡の残し方」をLMSのシラバスに定義。受講ログ、テスト得点、出席、課題提出、講師フィードバックはLMSの標準レポートで統一します。
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原則5|ナッジと伴走で離脱点を潰す(LMSの通知・ライブ・アラート)
目的の非対称は、受講の途中ほど表面化します。LMSの自動リマインドで3点ナッジ(開始直後/中間/期限前)を送り、ライブ配信(ウェビナー)と中間15分面談で「今の学びが次の業務のどこに効くか」を言語化。未ログイン・未提出などのリスクシグナルはLMSで検知し、SLA(例:24時間以内に講師が返信)と連動した個別フォローに落とします。eラーニングの離脱点は、ツールの力で先回りして潰せます。
なお、ナッジとは強制や金銭的インセンティブに頼らず、選択の設計(選択アーキテクチャ)を少し工夫して、望ましい行動を自発的に取りやすくする考え方です。ポイントは、選択の自由を保つこと。押しつけではなく、タイミング・表示・初期設定などを最適化して、本人が達成したい目標(学習の完了・活用)にそっと背中を押す設計です。
eラーニング/LMSでは、次のような具体例がナッジにあたります。
- タイミングの工夫:受講開始直後/中間地点/期限前に、短い行動指示つきの自動リマインド(「次は3分テストから」など)。
- 初期設定(デフォルト):カレンダー招待を自動追加ON、通知は要点のみを既定表示。
- 見える化:進捗バー、次にやる1件の強調、ミニ期限(今週はユニット2まで)。
- 社会的規範の提示:同じ部門の完了率を透明性を保って共有(押しつけにならない表現)。
- 摩擦の低減:LMSのワンクリック再開、前回位置から再生、課題テンプレの自動挿入。
ここで一つ注意です。通知過多は逆効果です。目的の非対称(学び手の主観と組織の客観のズレ)を埋める文脈で、短く具体的にセットしていきましょう。
原則6|B2B前提の品揃えで、運用まで含めて提供する(eラーニング LMSのパッケージ)
法人でのリスキリングでは「コンテンツ」単体ではなく、運用パッケージが必要とされます。LMSのアカウント一括発行、グループ配布、進捗ダッシュボード、月次レポート、更新研修までを含めたB2Bパッケージを基本形として考えましょう。
ラインナップは、入門(導入3時間)→実践(9〜12時間)→定着(月次マイクロ)の3階層をeラーニングで提供し、請求・席数管理・管理者権限などのLMSオペレーションを最初から商品に組み込むすることで、意思決定が速くなります。
原則を踏まえたリスキリングパッケージの活用へ
原則1で理由とゴールを二軸で定義し、2で短い単位をLMSに編成、3で可視化をLMSレポートで実現。4で助成金要件をLMSのシラバスに先回りで反映し、5でナッジと伴走をLMSの通知・ライブで回し、6でB2Bパッケージとして運用まで束ねる――この順で設計すれば、eラーニング LMSは「目的の非対称」を構造的に解消し、着手→定着→業務成果を一本の体験に変えられます。
市場の今――B2Bが伸びる「eラーニング×LMS」需要
B2Bパッケージとして運用まで束ねると、意思決定は速くなります。実際、国内のeラーニング市場はコロナ後の反動で成長率が落ち着きつつも、B2Bが拡大の牽引役です。すなわち、eラーニングを使ったリスキリングをLMSで運用・可視化し、部門単位の導入に適したパッケージとして提示するのが、今求められているやり方です。
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DSS――合意形成を早める共通言語としての使い方
「このeラーニングは、どの業務KPIにどう効くのか?」を社内で合意するには、DSS(デジタルスキル標準)が早道です。DSS-Lは全ビジネスパーソン向けのDXリテラシー、DSS-PはDX推進人材の役割とスキルを定義。2024年7月のver.1.2では、生成AIへの向き合い方・行動などが補記され、実務での当てはめがしやすくなりました。リスキリング eラーニングの学習目標(タスク文)や修了基準をDSSの項目に紐づけ、LMSのシラバス/評価指標に落とし込む――この「設計→運用→評価」の一本化が、導入の合意形成を加速します。
なお、DSS策定の背景・目的などはIPA(情報処理推進機構)のホームページを確認してみてください。
参照元:https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/index.html
人は学び続けられる。学ぶ動機のズレをなくそう
人は学び続けられます。学び手の主観(面白そう・役に立ちそう)と組織の客観(業務がこう変わる)のズレ=目的の非対称を、
- 事業KPI×個人キャリアの二軸でテーマを定義し、
- 10〜15分のマイクロ設計で“仕事の流れ”に埋め込み、
- 修了証PDF・成績レポート・受講ログで“読める化”し、
- 助成金要件を最初からLMSの構造に織り込み、
- ナッジと伴走で離脱点を潰し、
- B2Bパッケージとして運用込みで提供する
ことで解決することができます。
市場の潮流(B2Bの拡大)と制度(DSSの更新)は、このアプローチを後押ししています。eラーニングを使ったリスキリングはコンテンツ単体では完結せず、LMSを軸にした運用設計で「続く・効く」に変わります。
「売る・運用する・証跡を残す」まで一気通貫!クラウド型LMSクオリフ(Qualif)
Qualif(クオリフ)は、講座販売(決済)×受講管理×テスト/アンケート×修了証PDF×受講ログ出力を一体化したクラウド型LMSです。アカウント一括発行・グループ配布・進捗ダッシュボード・メール通知など、B2B導入で求められる運用機能を標準搭載。リスキリング eラーニングを法人パッケージとして「すぐに売れる・回せる」状態にします。
クオーク株式会社では、助成金の機能要件に対応したLMS「Qualif(クオリフ)」の提供だけにとどまらず、教材設計のアドバイスからコンテンツ制作、LMS運用のご支援までをトータルでサポートしています。単なるシステム屋ではなく、貴社の事業の成功のためのパートナーとして、eラーニングビジネスを成功させるための様々なノウハウをご提供しています。
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