LMS(Learning Management System:学習管理システム)とは~基本から応用まで、その機能と活用を知る~

LMS(Learning Management System)は、eラーニングの実施・運用に必要な機能を備えた管理システムのことで、「学習管理システム」とも呼ばれています。eラーニングコンテンツの作成、配信、受講者の管理、組織の管理、受講の進捗状況の管理までを一元的に行えることが特徴で、学校や企業で多く利用されており、eラーニングの実施を支える重要な役割を担っています。

本記事でLMSの基本機能、応用機能について理解することで、LMSをより使いこなすことができます。詳しく見ていきましょう。

目次

LMSの基本機能

LMSには、受講者向けの「受講機能」と、管理者向けの「管理機能」があります。それぞれについて、まず基本的な機能を紹介します。

受講機能

ログインする

LMSを使う最初のステップは、受講者がIDとパスワードでログインして自分専用のトップ画面にアクセスすることです。受講者一人ひとりの学習履歴を記録するために、全員に一意のIDが割り当てられ、システムにログインして利用する必要があります。IDには、メールアドレスや社員番号などを使うケースがほとんどです。

また、企業で利用する場合には、社内にすでにある認証システムとのシングルサインオン(SSO)ができるように設定するケースもあります。

eラーニングコースが表示される

ログイン後のトップ画面には、その受講者が受講できるeラーニングコースが一覧で表示されます。表示するコースは設定で変更できるようになっているLMSが多く、以下のようなコースを表示できます。

・管理者が割り当てたコース
・受講中のコース
・受講期限の近いコース
・人気のあるコース
・オススメのコース 等

最近は受講履歴を元にお薦めのコースをレコメンドする機能を持ったLMSも増えてきており、受講者にいかにして学んでもらうかを各LMSが競っています。

受講する

コースを選択し、目次に沿ってeラーニングコースを受講します。動画、確認テスト、アンケート、Scormコンテンツ、Zoom等のオンラインライブ研修、Youtube等の外部の動画配信サイト、レポート提出など、様々な学習教材を1つのeラーニングコースとして束ねることができるLMSが多く、様々な学習体験を受講者に提供します。

 受講履歴が自動的にシステムに記録される

受講者が学習を進めると、受講状況がLMSに自動的に記録されていきます。受講中のコースの続きから学習したり、テストで間違えた問題を復習したりと、受講履歴から自分の学習速度や理解度を把握し、今後の学習の目標設定に役立てることができます。

管理機能

 eラーニングコース作成機能

LMSでは、管理者が教育プログラムや学習コースを作成できます。動画やアニメーション、テキスト、確認テスト、アンケートなどを研修内容に応じて組み合わせることができます。
コースの作成にあたっては、インストラクショナルデザインと呼ばれる教材設計技法を取り入れて、構成を考えていくことが重要です。企業における人材育成は、学校教育と比較すると、研修受講者の属性の差が大きいという特徴があります。そのため、研修受講の前提条件とゴールとをしっかりと設計する必要があります。そのための技法がインストラクショナルデザインです。

 受講者を管理する機能

受講者の情報を登録・管理する機能です。所属先や勤続年数、保有する資格、スキルといった属性情報を登録することにより、学習者のグループ分けや、属性に合ったコースの受講割当を行うことができます。

組織を管理する機能

企業内の組織階層を登録し、受講者を所蔵組織単位で管理する機能です。組織ごとに管理者(上長)を置いて部下の学習進捗状況を管理することも可能です。
また、組織とは別に、組織横断的なグループを作成することもできます。2024年新入社員グループ、課長グループ、PMBOK資格保有者グループなどを作成し、そのグループに対して研修コースを割り当てることも可能です。

 eラーニングコースを受講者に割り当てる機能

管理者が受講者に対してeラーニングコースの受講割当を行う機能です。例えば新入社員に対しては基本的なビジネスマナーのコースを、中堅社員に対してはリーダーシップ研修コースを割り当てるなど、対象者ごとに最適なカリキュラムを受講できるように設定します。受講の開始日・終了日を設定することもできます。

受講履歴を確認する機能

受講者の受講の進捗状況を確認し、分析するための機能です。受講者ごとの学習の進み具合や、テストの得点、アンケートの回答、レポートの回収状況などを把握できます。管理者はこれらのデータから学習者の理解度を客観的に把握し、学習教材の改善などに役立てることができます。

受講者に対するコミュニケーション(お知らせ・メール)機能

LMSから受講者に対してお知らせやリマインドメールを送信できます。例えば、受講開始日の前日に準備を促したり、受講期限が近づいてきたときに学習を促したりすれば、受講者の学習モチベーション維持につながり、計画的な学習を促進することができるでしょう。
また、フォーラム・掲示板やチャット機能など受講者と講師がコミュニケーションを取れる機能が備わっていれば、質問やフィードバックを気軽に行え、学習効果を高められます。

LMSの応用機能

これらの基本的な機能を備えるLMSは数多くありますが、今後はAI技術などを活用して、LMSの機能を広げていくことが求めれます。

受講機能の応用

顔認証等を活用した本人確認の厳格化

資格取得のための認定試験や、昇進昇格に関わる社内の試験など、より厳格な本人確認が必要となる学習にLMSを利用するためには、ログイン時の本人認証をID・PWだけで行うのでは機能不足です。メールやSMSを利用する二要素認証でもまだ足りず、ログイン時に本人が端末の前にいたことを証明するためには、少なくとも顔認証が必要です。

もっとも、ログインした後で受験者がすり替わったのでは意味がないため、試験中に一定時間おきに端末のカメラから受験者の顔を照合する機能も必要でしょう。また、カンニングを防ぐためには、受験者の表情や目線、動作を自動的に認識する機能も有効と考えられます。

試験の内容も変える必要があります。カンニングで簡単に解ける問題というのは、知識を問うている問題です。ビジネスにおいては記憶力よりも思考力こそが重要であることを鑑みても、これらの資格試験も記憶力よりも考える力を問う問題に変えていく必要があるでしょう。

などと考えていたところに、昨今の生成AIの波がやってきました。問題文を生成AIに流し込めば、指定した文字数で瞬時に解答を返してくれます。パソコンを使って試験をする以上、その場で生成AIを使って解答されてしまうことを防ぐ必要があります。通信データを監視するのかどうするのか…悩ましいところです…

AIによるコースのレコメンド機能

受講者に対してコースをレコメンドする機能も、AIを使って機能強化が可能です。
これまでのLMSのレコメンド機能は、受講履歴から導き出されたものがほとんどでした。「このコースを受講している人はこちらのコースも受講しています」という、Amazon等でよく見たパターンです。Amazonのような膨大なデータの裏付けがあれば有効ですが、社内のeラーニング程度のデータ量から導き出されるのは、「全社員必須受講のセキュリティ研修を受講している人は、全社員必須受講のコンプライアンス研修を受講しています」という笑えない結果になることもしばしばでした。

ここから抜け出すには、「自社内の受講履歴データ」だけを分析していてもダメで、ここにどのようなデータを掛け合わせて分析するかがカギになると考えられます。「社外の受講履歴データ」かもしれませんし、「自社内の別の人事関連データ」かもしれません。一人ひとりにあった学習のレコメンドを実現するための試行錯誤が続いていくでしょう。

精緻な履歴データの取得

精緻な受講履歴データを取得することに加えて、受講者の受講中の行動履歴データを取ることがポイントになると考えます。さらには、LMSの外の履歴データも重要になる可能性があります。どのようなデータを取るべきかは今後の検討ではあります。

管理機能の応用

教材の自動生成

生成AIを利用すると、
 ・PowerPointスライドを作成する
 ・スライドを説明するナレーション原稿を作成する
 ・ナレーション原稿から音声合成でナレーションの音声を作成する
 ・音声に合わせて口や身体が動くアバターを作成する
 ・スライドと音声とアバターが同期した動画ファイルを作成する
すでにここまでのことは自動で行ってくれます。

今後この生成AIの性能がますます向上していくと、ビジネスの基礎スキルのような一般的な内容を学ぶためのeラーニングコンテンツは、自動的に生成されるようになるでしょう。1日100コンテンツを自動的に生成するサービスというようなものも出てくるでしょう。すでにあるかもしれません。

そうなると、人が作るコンテンツはどういうものになるのか。AIがまだ知らない、その人独自の経験や知見に基づいたコンテンツということになるでしょう。もっとも、独自のコンテンツを作るのにもAIを活用していくと、いずれはAIが知らないことはなくなるのかもしれませんが。

生成AIによるコンテンツ作成が本格化すると、LMSにはこれまでとは桁違いの数のコンテンツが載ってくることになります。そのときにLMS求められる役割は何かを突き詰めていく必要があるでしょう。

高度な受講履歴分析(ダッシュボード、AI、BI)

コンテンツの数が増え、受講者の受講履歴・行動履歴が細かく取れるようになると、それらを分析するための材料は豊富にそろった状態と言えます。また、分析のためのツールもすでに豊富にあります。

ポイントになるのは、それらのデータを何のために分析するのかという、分析の目的の設定にあると言えます。それは言い換えると、eラーニングを活用した人材育成の目的が何であるかということと同義です。人材育成の目的は7割くらいが各社共通で、残り3割くらいが各社ごとの独自性が出ると考えると、受講履歴分析機能も7割くらいはあらかじめ用意された分析結果を見つつ、3割くらいは各社ごとにカスタマイズできるのがベストと考えます。

インテリジェントなメール通知機能

受講者のモチベーションを維持し、学習を継続させるためにLMSができることとして、受講者に対するメール・SMS・チャット・お知らせ等を使った通知機能があります。
外資系のLMSには自動通知メールが500種類以上用意されているものもありますが、実際に使うのは10種類程度であったりします。99%のメールは使われていないことになります。

どのようなタイミングでどのような通知を送ると学習の継続につながるのかを考える際のヒントになるのが行動経済学ではないかと考えています。行動経済学は、今世紀に入ってから創設された新しい分野です。人間の合理的な行動を前提とした従来の経済学と違い、人間心理を追求し、心理学の理論を加味しながらその行動を研究する学問です。受講が滞っている学習者に対して、その心理状態をAI、BIを活用して分析し、受講者ごとに最適なタイミングと内容で学習を促す通知を届る、そのような仕組みが作れるのではないかと考えています。

まとめ:LMSが拓く未来

LMSは、学習を管理するツールとしてだけでなく、組織全体の成長を促進する戦略的なプラットフォームへと進化する必要があります。そのために弊社でeラーニングプラットフォーム「Qualif(クオリフ)」の開発を進めています。
開発の進捗などは随時公開していきます。ご期待ください。

『クオリフ』の詳細資料はこちらからダウンロードしてください。

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この記事を書いた人

クオーク株式会社 代表
教育系出版社(現ベネッセ)、IBM等を経て、NTTドコモと電通の合弁会社である(株)D2Cにて企業向けeラーニング事業を立ち上げる。その事業のアルー(株)へのバイアウト後の2021年に起業し、クオークを設立。
企業向けのeラーニングビジネスに20年以上携わり、その知識と経験を活かしてQualifを開発中。

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