「階層別研修は意味ない」は本当か?~生成AI時代に「節目で学び直す」意味を再定義する~

「階層別研修はもう意味がないのでは?」

そんなお悩みをお持ちの研修担当の方も多いのではないでしょうか。

生成AIの登場で、知識は誰でも瞬時に手に入る時代。従来のように「知識を教える研修」だけでは、もはや人材育成の本質を捉えきれなくなってきています。

本記事では、生成AI時代に求められる人材育成のあり方とともに、「階層別研修は本当に意味がないのか?」を改めて問い直します。

目次

「階層別研修は意味ない」と言われる背景

「階層別研修は意味ない」「階層別研修はもう時代遅れだ」。

最近、そんな声を耳にすることがあります。特にSNSや人事・人材開発の現場では、「年功序列の名残」「一律にやっても意味がない」「個別最適化の時代には合わない」といった意見が目立ちます。

たしかに、従来の階層別研修は年功序列を前提に作られてきた面がありました。

同じ社歴・年代の社員が一斉に集合し、「課長昇格者研修」「新任リーダー研修」など、ほぼ年次研修のように扱われてきたのです。

階層別研修は、研修というよりもいわば通過儀礼のような存在だったと言えるかもしれません。

しかし今、企業の状況は大きく変わっています。

中途採用が増え、キャリアの多様化が進み、年齢や社歴とスキルの関係はもはや一致しません。

同じ「リーダー層」といっても、専門スキルで抜擢された人もいれば、マネジメント経験豊富な人もいる。このように背景がバラバラな社員が増えた今、かつてのような「一律研修」は現実に合わなくなっているのです。

では、階層別研修はもう不要なのでしょうか。

私はそうは思いません。むしろ、今こそ階層別研修の「目的」をアップデートする必要があると考えています。

生成AI時代の人材育成は、知識より「問いを立てる力」

生成AIが登場したことで、人材育成のあり方は劇的に変わりつつあります。

知識を覚えることの価値は相対的に下がり、「AIにどう問いを立てるか」「どう活用するか」が重視されるようになりました。暗記することよりも、問いを立てる力や課題設定力が問われているのは、義務教育の現場だけではありません。

すべての学びは個人主導の「パーソナライズド・ラーニング」へとシフトしています。

もちろん、これは歓迎すべき変化です。ただし、階層別研修の観点で見ると、もう一歩深く考える必要があります。というのも、生成AIの影響を最も強く受けるのは新入社員だからです。

AIに質問すれば、たいていの答えは返ってきます。しかし、新入社員はその答えが正しいかどうかを判断できません。なぜなら、判断の基盤となる経験がまだないからです。

仕事の現場では、単に「正しい答え」よりも、「状況に応じて妥当な判断をする力」が求められます。

AIの出す答えを鵜呑みにせず、「なぜそうなるのか」「どう活かすべきか」を考える力がなければ、本当の意味でAIを使いこなすことはできません。

つまり、生成AI時代の階層別研修で最も重要なのは、新人研修の再設計です。

新人に求められるのは、知識やスキルの詰め込みではなく、AIを活用する前提となる判断力の土台や現場感覚の形成です。この段階で「考える力」「人との対話力」「状況を読む力」を育てておかなければ、その後のキャリアでAIを使いこなすことは難しいでしょう。

上司の役割も変わる──AIが育成の構造を揺るがす

新人の育成が変わるということは、当然ながら、育てる側である上司の意識も大きく変わらなければなりません。これまで新人に任せていたような初歩的な業務は、今や生成AIが簡単にこなせるようになりました。上司がAIを使って自分でやったほうが、早くて正確で効率的です。

そうなると、「新人にやらせて覚えさせる」よりも、「自分でAIを使って処理する」ほうが合理的に見えてしまいます。

しかし、その構図は非常に危ういものです。上司がAIを使って効率を優先するほど、部下を育てる機会が失われていくからです。つまり、「AIで業務を効率化しなさい」という指示は、裏を返せば「部下の育成を後回しにしなさい」と言っているのと同じ構造にもなり得ます。

育成を通じて上司自身も自分の仕事を言語化し、チームの知識を共有し、組織の「学びの循環」を作ることが、本来のマネジメントの役割です。もし上司がAIに頼りきり、個人プレーに偏ってしまえば、組織の知は個人の中に閉じ、チーム全体が学習しなくなってしまいます。

だからこそ、生成AI時代の階層別研修では、係長や課長クラスに対して「育成の意味を再定義する」ことが欠かせません。AIと人の両方を活かす「ハイブリッド・マネジメント」をどう実践するか。

AIが当たり前の時代において、「部下を育てることの価値」をどう位置づけ直すのか。

この問いに向き合うことこそ、次世代の管理職研修のテーマになるはずです。

階層別研修を「年次」から「役割」へ

階層別研修を「年次で一律に行う研修」と考えるから、時代遅れと言われるのです。

本来の意味はそうではありません。階層別研修とは、そのポジションに就いた人が、その役割を果たすために必要な知識・スキル・マインドを身につける研修のことです。

つまり、年齢や社歴で区切るのではなく、役割の節目で行うリスキリングです。

新任リーダーには「AIを活用してチームの生産性を高める力」。
課長層には「AI時代の人材育成とチーム運営力」。
経営層には「AIを前提とした戦略判断と組織文化の再構築」。

このように、それぞれの階層において「役割の本質」を学び直す場として再定義する必要があります。

そして、もう一つ重要なのは、階層別研修を会社の方針を伝える場として活用することです。

「あなたがこの役職に就いたということは、会社としてこういう行動を期待している」というメッセージを、明確に伝える機会にするのです。方針の共有があって初めて、学んだ知識やスキルが現場で活かされます。この「会社の方向性と役割期待の共有」こそが、階層別研修の最大の価値と言えるでしょう。

階層別研修は「終わった」のではなく「進化する」

「階層別研修は古い」という意見は、一面では正しく、もう一面では誤解でもあります。

古いのは仕組みそのものではなく、目的の解像度が低いまま続けているやり方のほうです。

生成AI時代における階層別研修の本質は、年齢や職位ではなく、「役割の節目で立ち止まり、学び直す機会を設計すること」にあります。組織の中で変化を担うタイミングこそ、学びを再起動するチャンスです。

AIが知識を補ってくれる時代だからこそ、人間が向き合うべきは「思考」と「関係性」です。

階層別研修を、単なる教育イベントではなく、組織の方針を共有し、役割を再確認し、個人の成長を後押しする「節目のリスキリング機会」として設計していく。

それが、生成AI時代における人材育成の最も現実的で、かつ戦略的なアプローチだと考えています。

▼参考記事はこちら!
eラーニングでのリスキリングで成果は出るか?~日本のデータで見る「続く設計」と売れる仕組み~ | Qualif eラーニングラボ

階層別研修 よくある質問

Q1. 「階層別研修」と「年次一律研修」は何が違いますか?
A. 年次や社歴で一律に集めるのではなく、役割が変わる「節目」で、その役割に必要な知識・スキル・マインドを集中的に学び直す設計です。年齢ではなく「役割責任」を基準にします。

Q2. いまの時代に階層別研修は本当に必要ですか?
A. 必要です。ただし目的をアップデートすることが前提。会社の方針と役割期待を明確に共有し、現場での行動に結びつく「節目のリスキリング」として再設計します。

Q3. 生成AI時代の新人研修は何を重視すべき?
A. 暗記より「判断の土台づくり」。AIの回答を鵜呑みにせず、状況に応じて妥当性を見極める思考力・対話力・現場感覚を形成します。

Q4. 管理職(係長・課長)向けのテーマは?
A. 「AI×人のハイブリッド・マネジメント」。業務効率だけに偏らず、育成・言語化・知の共有を回す仕組みづくり(1on1、OJT設計、ナレッジ化)が核です。

Q5. 経営層向けのテーマは?
A. 「AIを前提にした戦略判断と組織文化の再構築」。AI活用の原則、権限設計、評価・報酬の見直し、学習する組織づくりなど。

Q6. 階層別研修を実施する「節目」とは具体的にいつ?
A. 昇格・新任ロール着任、組織再編、事業・プロダクト転換、M&A後の統合開始、重要KPIの更新時など。人と組織の期待が切り替わるタイミングです。

Q7. 研修が画一的にならないための工夫は?
A. 役割共通の必修×個別課題の選択制。事前診断(役割期待×現在地)→個別アクションプラン→上司との合意→実務課題への適用→振り返り、のサイクルで個別最適化します。

Q8. 研修と現場をどうつなぐ?
A. 「事前合意(役割期待・評価指標)」「現場課題に直結するワーク」「上司同席のレビュー」「30/60/90日の実行点検」をセットで運用します。

Q9. 効果測定(KPI)は何を見ればいい?
A. 例)合意した行動目標の実行率、1on1/指導時間、AI活用の適用件数・再現率、チーム生産性(リードタイム/エラー率)変化、ナレッジ化件数、部下の自律度など。

Q10. 「自己学習(eラーニング)だけ」で十分では?
A. 不十分になりがちです。AI時代は「問いの質」と「判断の場数」が肝。コンテンツ視聴に、実務課題・対話・フィードバックを組み合わせて初めて行動変容が起きます。

Q11. 上司がAIで処理してしまい育成機会が減るのが心配です。対策は?
A. 役割として「育成KPI」を明示し、AIは「教えるための可視化・雛形作成」に使う方針へ。新人には意図説明と段階的委譲、リスクは上司が最後に引き受ける運用にします。

Q12. 新卒と中途で階層別研修の設計は変えますか?
A. 変えます。新卒は「判断の土台」を厚く。中途は「役割期待の明確化」と「社内文脈の高速キャッチアップ」を重視。いずれも上司との合意形成が鍵です。

Q13. 予算・時間が限られる場合の最小構成は?
A. ①役割期待の一枚紙、②1DAY集中(共通必修+現場課題ワーク)、③30/60/90日フォロー面談、の3点セットから始められます。

Q14. 階層別研修は何から着手すればいい?
A. 現行研修の棚卸 → 役割定義と期待行動の明文化 → カリキュラム(必修/選択)設計 → 上司を巻き込む運用ルール → KPI設計 → 小さくパイロット → 展開、の順です。

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