はじめに
「毎月1日になると、入社者のCSVデータを作って、LMSに手作業でアップロードするのが憂鬱だ」
「退職者のID削除を忘れていて、数ヶ月間もLMSにアクセスできる状態だった(セキュリティ事故)」
「人事システムの『社員情報』と、LMSの『受講履歴』を突き合わせて分析したいが、データが分断されていて手作業で結合している」
多くの人事担当者が、こうした「システム間のデータ連携」に膨大な時間を奪われています。「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が叫ばれる中、未だにCSVファイルを手動でダウンロード&アップロードしているのは、非常に非効率であり、ミスや漏洩のリスクも伴います。
この問題を解決し、異なるシステム同士を自動で会話させる魔法のパイプが、「API(エーピーアイ)連携」です。
本記事では、APIの仕組みや、LMS導入における具体的な活用シーン、そして「自動化」によって人事が手に入れる本当の価値について解説します。
1.API連携をひとことで言うと?
API(Application Programming Interface)とは、一言で言うと「異なるソフトウェアやシステム同士をつないで、機能やデータをやり取りするための接続口(窓口)」のことです。よく例えられるのが、「レストランのウェイター」です。
- あなた(利用者):「オムライスをください」と注文する。
- 厨房(システム):料理を作る(機能やデータを持っている)。
- ウェイター(API):注文を厨房に伝え、出来上がった料理をあなたに運ぶ。
あなたが厨房に入ってシェフに直接頼む必要はありません。ウェイター(API)という窓口に頼めば、裏側の難しい処理を知らなくても、欲しい結果(料理)だけを受け取ることができます。
システムの世界でも同じです。LMSが「人事システムさん、新入社員のAさんのデータをください」とAPI経由で頼めば、人事システムが「はい、どうぞ」とデータを渡してくれます。
【用語の要約】
- 目的:業務の自動化、リアルタイム連携、開発コストの削減
- 対象:LMS、人事給与システム、チャットツール、BIツールなど
- 英語:Application Programming Interface
- よく使われる形式:REST API、Web API
2.なぜLMSにAPI連携が必要なのか(3つの苦痛からの解放)
LMS単体でも運用は可能ですが、API連携がないと、人事担当者は「データの運び屋」としての苦痛を味わうことになります。
①「入退社メンテ」の自動化(工数削減)
これが最大のメリットです。毎月、新たに社員が入社するたびにLMSに登録し、退職者が出たら削除する。人事異動があれば所属部署コードを書き換える。
API連携を使えば、大元の人事システム(SuccessFactorsなど)が更新された瞬間に、LMS側の情報も自動で同期されます。人事担当者は何もしなくて良くなります。
②「退職者のID削除漏れ」防止(セキュリティ)
手動運用で一番怖いのが「削除漏れ」です。退職した社員が、自宅からLMSにログインして社外秘の研修資料をダウンロードできてしまったら大事故です。
API連携なら、人事システムで「退職」ステータスになった瞬間に、LMSのアカウントも即座に停止(無効化)されるため、タイムラグなくセキュリティが担保されます。
③「通知」の最適化(受講促進)
「研修の締切が明日です」というメールを送っても、社員はメールを見ません。API連携を使えば、全社員が毎日見ているSlackやMicrosoft Teamsに、LMSからの通知を直接飛ばすことができます。
「Slackに通知が来たから、そのボタンを押して受講完了」というスムーズな体験が、受講率を劇的に向上させます。
3.LMSにおけるAPI活用シナリオ
具体的に「どことつなぐ」のが効果的なのか、代表的な3つの連携パターンを紹介します。
パターンA:人事データベース連携(User Sync)
- 連携先:SmartHR、カオナビ、奉行シリーズ、SAPなどの人事基幹システム。
- 内容:社員マスタ(氏名、メールアドレス、部署、役職)をLMSに同期する。
- 効果:アカウント管理の完全自動化。組織改編時の部署移動も自動反映。
パターンB:シングルサインオン連携(Authentication)
- 連携先:Microsoft Entra ID(Azure AD)、Okta、HENNGE One。
- 内容:ログイン認証を統合する。
- 効果:パスワード入力不要でLMSにログイン可能(※厳密にはSAML認証ですが、APIを使ってユーザ情報を取得することもあります)。
パターンC:学習データ出力連携(Data Export)
- 連携先:Tableau、Power BI、タレントマネジメントシステム。
- 内容:LMSの受講履歴を外部に出力する。
- 効果:「営業成績データ(Salesforce)」と「研修受講データ(LMS)」を組み合わせて、「研修を受けた人は売上が伸びたか?」というROI分析が可能になる。
4.ファイル連携(CSV連携)とAPI連携の違い
「CSVを自動で取り込むのと、APIは何が違うの?」という質問もよくあります。両者は「頻度」と「リアルタイム性」が異なります。
CSV連携(バッチ処理)
- 仕組み:夜間に1回、CSVファイルをサーバに置いて読み込ませる。
- メリット:開発が比較的簡単。大量データを一気に処理するのに向いている。
- デメリット:反映されるのは「翌朝」。日中の変更は即時反映されない。
API連携(リアルタイム処理)
- 仕組み:変更があった瞬間に、その都度通信して書き換える。
- メリット:「今」の情報が常に正しい。入社手続きをした5分後にはLMSで研修が始められる。
- デメリット:開発難易度が少し高い。
現代のスピード感では、CSV連携からAPI連携(リアルタイム)へとシフトが進んでいます。
5.導入の壁:「開発コスト」と「仕様の壁」
APIは魔法の杖ですが、振ればすぐに使えるわけではありません。導入にはハードルがあります。
①開発コストがかかる
「API公開してます」といっても、それは「コンセントの穴があります」という意味に過ぎません。そこにプラグを差し込むためのプログラム(コネクタ)を書く必要があります。
これにはエンジニアの開発工数が発生するため、初期費用として数十万〜数百万円の見積もりが出るケースがあります。
②100%つながるわけではない(仕様の不一致)
「Aシステムの部署コードは5桁」だけど「Bシステムの部署コードは3桁」といったように、データの持ち方が違うと、そのままでは連携できません。間に変換プログラムを挟む必要があり、要件定義が複雑になります。
③API利用制限
「1分間に100回までしかAPIにアクセスしてはいけない」といった制限がある場合があります。社員数数万人のデータを一気に同期しようとすると、この制限に引っかかってエラーになることがあります。
6.API連携に関するよくある質問(FAQ)
- Q1.うちの人事システムは古いオンプレミスですが、連携できますか?
- A.そのシステムがWeb APIを持っていなければ、直接のAPI連携は不可能です。その場合は、CSVファイルを介した連携(バッチ連携)か、RPA(ロボットによる自動操作)を使って画面操作を代行させる方法などを検討します。
- A.そのシステムがWeb APIを持っていなければ、直接のAPI連携は不可能です。その場合は、CSVファイルを介した連携(バッチ連携)か、RPA(ロボットによる自動操作)を使って画面操作を代行させる方法などを検討します。
- Q2.API連携の設定は人事でできますか?
- A.基本的には情シス部門か、ベンダーのエンジニアでないと難しいです。「APIトークン」の発行や、通信テストなど、専門的な知識が必要です。人事担当者の役割は「どのデータを同期したいか(要件定義)」を決めることです。
- A.基本的には情シス部門か、ベンダーのエンジニアでないと難しいです。「APIトークン」の発行や、通信テストなど、専門的な知識が必要です。人事担当者の役割は「どのデータを同期したいか(要件定義)」を決めることです。
- Q3.Zapier(ザピアー)などのノーコードツールは使えますか?
- A.はい、LMSがZapierなどに対応していれば、エンジニアがいなくても「Slack通知」などの簡単な連携を自分で作ることができます。最近のモダンなLMSはこうしたノーコード連携に対応しているものが増えています。
7.成功のカギは「ベンダーのインテグレーション力」
API連携は、LMSベンダーの技術力が最も試される領域です。「APIドキュメントを渡すので、あとは御社で開発してください」というベンダーでは、非IT企業の人事部は立ち往生してしまいます。
本当に頼れるベンダーとは以下のようなベンダーです。
- 「SmartHRとなら、この設定でつながりますよ」という既存の接続実績(テンプレート)を持っている。
- 「部署コードの変換が必要ですね」と、データの不整合を解決する提案ができる。
- 情シス部門と直接対話して、セキュリティ要件をクリアできる。
8.まとめ
- API連携とは、システム同士をつないでデータを自動でやり取りする「ウェイター(窓口)」。
- LMSにおいては、「入退社メンテの自動化」「セキュリティ強化(ID即時削除)」などの絶大なメリットがある。
- 開発には専門知識が必要なため、接続実績が豊富で、情シス対応ができるベンダーを選ぶことが重要。
▼次のアクション「手作業での社員登録から解放されたい」「人事システムとLMSを自動連携させたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。



