はじめに
「部下からの日報が、ポエム(感想文)のようで要領を得ず、読むのに疲れる」
「メールのラリーが5往復しても、まだ会議の日程が決まらない」
「チャットで指示を出したら、『冷たい』『怒っている』と誤解され、若手が萎縮してしまった」
対面での会話が減り、SlackやTeams、メールなどの「テキストコミュニケーション」が主戦場となった今、文章力の低下は深刻な経営課題です。「読めば分かるだろう」という甘えは通用しません。分かりにくい文章は、読み手に「解読」という無駄な労力を強き、確認のための再連絡(手戻り)を発生させ、組織全体のスピードを劇的に落とします。
ある調査では、ビジネスパーソンは勤務時間の約3割を「メールやチャットの読み書き」に費やしていると言われます。もし、全社員のライティングスキルが上がり、メール作成時間が半分になり、誤解によるトラブルがゼロになったら?その経済効果は計り知れません。
本記事では、単なる「てにをは」の矯正ではなく、ロジカルシンキングに基づいた「一読で伝わり、相手を動かす文書」を書くための実践的トレーニングについて、AI活用視点も含めて解説します。
1.ビジネス文書作成研修をひとことで言うと?
ビジネス文書作成研修とは、一言で言うと「読み手の『読むコスト(時間と労力)』を最小化し、最短距離で目的(報告・連絡・相談・決済)を達成するための『情報の設計技術』を学ぶトレーニング」のことです。
学校で習った「作文」とはゴールが逆です。
- 作文・小説:起承転結で盛り上げ、情緒や過程を味わってもらう(読ませる文章)。
- ビジネス文書:結論から書き、1秒でも早く読み終えてもらう(読ませない文章)。
「美しい文章」を書く必要はありません。必要なのは、「誰が読んでも同じ解釈になり(正確性)」、「何をすべきかが明確(具体性)」な文章です。これは文才やセンスではなく、ロジカルシンキングのアウトプットスキルそのものです。
【用語の要約】
- 目的:コミュニケーションの効率化、誤解やトラブルの防止、知的生産性の向上
- 対象:全社員(特に新入社員〜中堅社員、管理職)
- キーワード:結論ファースト、PREP法、箇条書き、一文一義、クッション言葉
2.なぜ今、「書く力」が再評価されているのか
生成AIが登場し、「文章なんてAIに書かせればいい」という声もあります。しかし、現実は逆です。AI時代だからこそ、人間のライティングスキルが問われています。
①テキストが「人格」を作る時代
リモートワークでは、相手の顔を見る機会より、相手のチャットを見る機会の方が圧倒的に多いです。「文章が雑な人」は「仕事が雑な人」と判断され、「論理的で配慮のある文章を書く人」は「知的な人」として信頼されます。テキストコミュニケーションの質が、そのまま評価や信頼残高に直結する時代になったのです。
②「非同期コミュニケーション」の重要性
「あとでZoomで説明します」は、相手の時間を拘束する行為です。優秀な組織は、ドキュメント(文書)だけで情報共有が完結します(非同期コミュニケーション)。Amazonがパワポを禁止し、Wordの資料を読ませて会議をするように、「文書だけで自走できる(説明不要な)組織」を作ることが、生産性向上の鍵です。
③生成AIへの「プロンプト(指示)」
ChatGPTに良い文章を書かせるには、人間が論理的で明確な指示(プロンプト)を書かなければなりません。「いい感じに謝っておいて」では、AIはトンチンカンな謝罪文を作ります。「宛先は取引先、状況は納期の遅れ、原因は台風、代替案は来週月曜納品」と構造的に書く力がないと、AIという優秀な部下を使いこなせません。
3.カリキュラムの核心:「設計」と「装飾」
研修では、いきなり書き始めさせません。「書く前の準備(設計)」に8割の時間を使わせます。
①ターゲットとゴールの設定(書く前の設計)
PCに向かう前に、以下の問いに答えられるかを確認します。
- 誰に(Who):上司か、顧客か?(専門用語は通じるか?)
- 何のために(Why):報告か、相談か、依頼か?
- どうしてほしいか(Action):「読んで終わり」か「返信が欲しい」か「承認してほしい」か?
ここが曖昧なまま書かれたメールが、いわゆる「で、何?」と言われる悪文になります。
②論理構成の「型」(PREP法)
ロジカルシンキング研修でも登場した「PREP法」を、文章作成に適用します。
- 件名:【相談】A社への提案書の件(結論と目的を明記)
- 本文:
- P(結論):A社への提案納期を1日延長したく、承認をお願いします。
- R(理由):先方から追加の要件定義があったためです。
- E(詳細):具体的には○○の機能について……
- P(結び):つきましては、〇〇までに承認をお願いします。
③論理の冷たさを補う「クッション言葉」
ここが加筆ポイントです。PREP法だけで書くと、「納期を遅らせてください。理由は〜です」となり、非常に冷淡で、場合によっては反感を買います。ビジネス文書には、論理を包む「緩衝材(クッション)」が必要です。
- 依頼:「お忙しいところ恐縮ですが」「可能であれば」
- 断り:「あいにくですが」「大変心苦しいのですが」この一言があるだけで、同じ結論でも相手の受け止め方は「命令」から「相談」へと変わります。
「ロジック+配慮」がプロのライティングです。
4.メディア別の書き分け:「チャット」と「メール」
現代の研修では、従来の「ビジネスメール」だけでなく、「ビジネスチャット」の作法を教えることが必須です。
ビジネスメール(Formal)
- 特徴:証跡として残る、社外向け、儀礼的。
- ポイント:宛名、挨拶、署名を省略しない。CC(共有)の使い分け。
ビジネスチャット(Casual & Speedy)
- 特徴:リアルタイム、社内向け、短文。
- ポイント:「お疲れ様です」は不要(即本題へ)。メンション(@)を適切に使う。
- 注意点:チャットは「会話」ですが、ログは残ります。感情的な書き込みや、短すぎる返信(「り」など)は避け、スタンプで感情を補うテクニックも、現代のマナーとして教えます。
5.効果的な研修手法:「添削(赤ペン先生)」
「良い文章の例」を見るだけでは、書けるようになりません。「悪い文章」を「良い文章」に直すトレーニング(リライト)が最も効果的です。
Before/Afterワークショップ
実際に社内で飛び交っている「イケてないメール」を教材にします。「このメールを読んで、一瞬で意味が分かりますか?」「どこを直せば、上司は『承認』ボタンを押しやすくなりますか?」グループで添削し合い、講師が解説します。
「自分の書いたメールもこうなっているかも……」という恥ずかしさ(自覚)が、改善の原動力になります。
AIとの共創ワーク(人間は編集長になる)
「この要件で、お詫びメールの下書きを書いて」とChatGPTに指示させます。そして、AIが出してきた文章を、人間が推敲(チェック)します。
「AIのこの表現は慇懃無礼だ」「事実は正確か?」「相手への配慮(クッション言葉)が足りない」これからのライティングは、ゼロから書くことではなく、AIが書いたものを監査し、責任を持って仕上げる「編集力」が求められます。
6.よくある失敗例と対策(FAQ)
- Q1.新入社員が、友達に送るようなLINE感覚でチャットをしてきます。
- A.「チャット=遊び」という認識を改めさせる必要があります。「ビジネスチャットは『公式な記録』であり、仕事のツールである」と定義し、スタンプのみでの返信禁止や、納期回答のルールなどを明文化して教えてください。
- A.「チャット=遊び」という認識を改めさせる必要があります。「ビジネスチャットは『公式な記録』であり、仕事のツールである」と定義し、スタンプのみでの返信禁止や、納期回答のルールなどを明文化して教えてください。
- Q2.敬語や謙譲語の間違いが気になります。
- A.優先順位の問題です。もちろん敬語も大事ですが、それ以上に「論理破綻」の方が致命的です。まずは「意味が通じること(PREP)」を徹底し、その後に「丁寧さ(クッション言葉)」を磨く順番で指導してください。
- A.優先順位の問題です。もちろん敬語も大事ですが、それ以上に「論理破綻」の方が致命的です。まずは「意味が通じること(PREP)」を徹底し、その後に「丁寧さ(クッション言葉)」を磨く順番で指導してください。
- Q3.書くのに時間がかかりすぎます。
- A.「辞書登録(単語登録)」を活用させてください。「お」→「お疲れ様です。」、「よ」→「よろしくお願いいたします。」定型文を登録するだけで、入力速度は数倍になります。こうしたITスキル(タイパ術)とセットで教えるのが実践的です。
7.成功のカギは「LMS」での相互添削
ライティングスキルは、書いてフィードバックをもらわないと伸びません。しかし、上司がいちいち部下のメールを添削するのは負担です。
クオークでは、
- 添削課題機能:受講者が書いたメール文案をLMS上で提出し、講師やAIが添削して返す機能。
- テンプレート共有:「日報」「議事録」「謝罪メール」など、そのまま使える「型」をダウンロード可能。
- テスト:「間違い敬語探し」や「分かりにくい文章のリライト」などのドリル教材。
「社員のメールがおかしい」「チャットでのトラブルを減らしたい」とお考えのご担当者様は、ぜひご相談ください。
8.まとめ
- ビジネス文書作成研修は、読み手の時間を奪わないための「配慮」と「論理的思考」のアウトプット訓練。
- PREP法(論理)だけでなく、クッション言葉(感情)を使いこなすことが、トラブルを防ぐ鍵。
- AIに下書きを書かせ、人間が「編集長」として仕上げる、新しいライティングプロセスを習得させる。
▼次のアクション「実務で使えるライティング教材を探している」「AIを活用した文章力向上研修を行いたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
9.関連用語
- [ロジカルシンキング]
- [PREP法]
- [LMS(学習管理システム)]
- [情報セキュリティ研修](誤送信対策)
- [プレゼンテーション研修]



