はじめに
「投資家から『人材戦略』について詳しく聞かれるようになった」 「有価証券報告書に人材育成の情報を載せなければならず、焦っている」
近年、経営者や人事責任者の間で「人的資本経営(Human Capital Management)」への関心が急速に高まっています。2023年3月期決算より、上場企業に対して人的資本の情報開示が義務化されたことも大きな要因です。
本記事では、この言葉の本当の意味から、注目される背景(人材版伊藤レポート)、具体的な開示項目、そして企業が取り組むべき最初の一歩について、3分でわかりやすく解説します。
1. 人的資本経営をひとことで言うと?
人的資本経営とは、一言で言うと「人材を『資源(コスト)』ではなく『資本(投資対象)』と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営手法」のことです。
これまでの「人的資源管理(Human Resource Management)」が、人件費をなるべく抑えて管理しようとする「守り」の考え方だったのに対し、人的資本経営は、人に投資してリターン(成長)を得ようとする「攻め」の考え方と言えます。
【用語の要約】
- 目的: 企業価値の向上、持続的な成長
- 対象::経営層、人事部門、投資家(ステークホルダー)
- 英語: Human Capital Management
- 従来の考え方との違い:
- 従来: 人は「コスト」。消費するものであり、いかに効率よく管理するか。
- 現在: 人は「資本」。投資するものであり、いかに価値を創造させるか。
2. なぜ今、人的資本経営が重要なのか
背景には、世界的な産業構造の変化があります。 かつては工場や機械などの「有形資産」が企業の価値を決めていました。しかし、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microoft)に代表される現代の企業では、技術やブランド、そしてそれを生み出す「人(無形資産)」こそが価値の源泉になっています。
日本においても、以下の動きにより重要性が決定付けられました。
- 「人材版伊藤レポート」の公表(2020年):経済産業省が、経営戦略と人材戦略を連動させるための指針(3つの視点・5つの共通要素)をまとめ、日本企業に変革を促しました。
- 人的資本の情報開示の義務化(2023年〜):上場企業は有価証券報告書において「人材育成方針」や「社内環境整備方針」などの記載が必須となりました。
- ESG投資の拡大:投資家が企業を評価する際、財務情報だけでなく、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)を重視するようになり、「S(社会)」の中核である「従業員への対応」が厳しく見られるようになりました。
3. 企業が導入するメリット・デメリット
メリット
- 企業価値(株価)の向上: 「この会社は人が育つ仕組みがある」と評価されれば、投資が集まりやすくなります。
- 採用ブランディングの強化: 教育への投資や働きやすさを数値で示すことで、優秀な人材が集まりやすくなります。
- 生産性の向上: 従業員のエンゲージメント(意欲)やスキルが高まることで、イノベーションが生まれやすくなります。
デメリット・注意点
- 短期的なコスト増: 教育研修費やシステム導入費など、先行投資が必要です。
- 測定と開示の負担: どのような指標(KPI)を設定し、どうデータを集めるかの設計が難しく、人事部門の業務負荷が増える可能性があります。
4. 具体的に何をすればいい?(開示項目と指標)
「概念はわかったけれど、具体的に何を開示すればいいの?」という疑問に対しては、国際的なガイドラインである「ISO 30414」や、内閣官房の指針が参考になります。
特に重要な独自指標として、以下のような項目がよく挙げられます。
- 育成(リーダーシップ・スキル)
- 指標例: 従業員一人あたりの研修時間、研修費用、リスキリングへの参加率。
- エンゲージメント
- 指標例:従業員満足度調査(eNPS:Employee Net Promoter Score)のスコア、離職率。
- ダイバーシティ
- 指標例: 女性管理職比率、男性育休取得率、男女間の賃金格差。
これらを「ただ数字を出す」のではなく、「経営戦略(例:DX推進)を実現するために、この指標(例:デジタル研修受講率)を追っています」というストーリーで語ることが重要です。
5. 人的資本経営に関するよくある質問(FAQ)
- Q1. 非上場の中小企業には関係ない話ですか?
A. いいえ、大いに関係があります。義務化の対象は上場企業ですが、「人に投資する企業」でなければ人が集まらない時代です。採用難を乗り越えるためにも、中小企業こそ人的資本経営(=人への投資アピール)が必要です。 - Q2. 「人材版伊藤レポート」の「3つの視点・5つの共通要素」とは?
A. 経済産業省が示したフレームワークです。「経営戦略と人材戦略の連動」「As is – To be ギャップの定量把握」「企業文化への定着」の3つの視点と、「動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化」「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」「リスキル・学び直し」「従業員エンゲージメント」「 時間や場所にとらわれない働き方の5つの共通要素で構成されています。迷ったらまずはこれに目を通すことをおすすめします。 - Q3. 人事部門は何から始めるべきですか?
A. まずは「データの可視化」です。自社の研修時間やスキル保有状況などが把握できていなければ、戦略の立てようがありません。LMSなどを活用してデータを集めることから始めましょう。
成功のカギは「育成状況の可視化(データ化)」
人的資本経営の実践において、最大の壁となるのが「データの収集・管理」です。
「誰がどんなスキルを持っているか分からない」 「研修をやったけれど、履歴がバラバラで集計できない」
このような状態では、効果的な投資も、外部への開示も不可能です。
クオークでは、LMS(学習管理システム)の導入支援を通じて、従業員の学習履歴やスキル習得状況を一元管理する仕組みづくりをサポートします。また、人的資本経営の核心である「リスキリング(再教育)」のための教材制作も承っております。
7. まとめ
- 人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」と捉え、投資することで価値を生み出す経営手法。
- 上場企業の開示義務化により、研修時間やスキルなどの「データ」を示す必要性が高まっている。
- まずは自社の人材データを可視化し、経営戦略と紐づいた育成ストーリーを作ることが第一歩。
▼ 次のアクション 「人的資本情報の開示に向けて学習データを整備したい」「効果的なリスキリング研修を企画したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせフォーム – Qualif(クオリフ)
8. 関連用語
- [リスキリング]
- [カークパトリックの4段階評価法]
- [エンゲージメント]



