eラーニングの導入を検討する企業/導入済の企業の中には、「eラーニングの学習コンテンツをどのように用意していけば良いのだろうか?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
最近は、はじめから数多くの学習コンテンツがセットになっている受け放題型のeラーニングサービスも増えてきましたが、数ばかり多くても内容が自社に合っていなければ結局は社員は受講してくれません。弊社のお客様にお話を伺った範囲ではありますが、受け放題eラーニングの受講率は約3%前後というのが平均値でした。つまり、社員100人のうち受け放題eラーニングを受講してくれた社員は3人しかいなかったということです。
このような悲惨な状況を改善するための1つ方法は、お仕着せの一般論を学ぶだけの学習コンテンツではなく、自社特有の情報が盛り込まれた、社員が本当に必要としていることを学べるコンテンツを受講者に対して提供することです。そのような学習コンテンツはもちろん売られていませんので、自社で制作する必要があります。
本記事では、自社にあったeラーニングコンテンツを自分たちで作成する方法、つまりeラーニングコンテンツを内製化する方法について、初めての方にも理解できるように、全5回のシリーズで具体的に解説します。
第1回となる今回は、内製化で作成するコンテンツのパターンを4つに分けた上で、その4つのコンテンツパターンに共通する企画・設計段階の作業について詳しく説明します。第2回~第5回は、コンテンツパターンごとに個別の作業項目について、解説をしていきます。
eラーニングコンテンツ制作の内製化 全体概要(全25項目の作業項目)
eラーニングコンテンツには、実写動画やアニメーションを使ったものなど様々なパターンがありますが、今回は内製化に適している以下の4つのパターンを取り上げます。
- PowerPointスライドにプロのナレータによるナレーションを入れて動画にしたコンテンツ。
- PowerPointスライドに音声合成ソフトで作成したナレーションを入れて動画にしたコンテンツ。
- アニメーションにプロのナレータによるナレーションを入れて動画にしたコンテンツ。
- 講師が講義する姿をブルーバックスタジオで撮影してスライドと合成して動画にしたコンテンツ。
これらのeラーニングコンテンツを作成する作業項目を分解すると25の項目に分けることができ、コンテンツのパターンごとに該当する作業項目に●をつけたのが下記の一覧表です。

シリーズ第1回の本記事では、これらの作業項目のうちNo.1~7(黄色)の企画・設計段階の作業の内容について解説します。
eラーニングコンテンツを内製化するには企画と設計が重要です。どのような目的で、どのような対象者(受講者)に向けたコンテンツを作成するのかを明確にし、それに合わせた内容と構成を考えることで、学習効果の高い研修コンテンツを提供できます。
No.0:なぜ内製化をするのかを明確にする
25個の作業項目には含んでいませんが、コンテンツの企画・設計方法の検討に入る前に、コンテンツ内製化を行うべきかどうかを確認することも忘れずに行ってください。
一般的には、eラーニングコンテンツ内製化が向いているか向いていないかを判断するには、下記に挙げたような観点で確認いただくことができます。
【内製化が適している企業】
- 自社に合ったeラーニングコンテンツの必要性を理解している
- スピード感を持って頻繁にコンテンツを追加・更新していきたいと考えている
- eラーニングの利用率・受講率を上げて、継続的に運用したいと考えている
- 社内に動画制作や資料作成のスキルを持つ人がいる
【適していない企業】
- お仕着せの一般論を学ぶだけのeラーニングコンテンツを買ってくればそれでよいと考えている
- 他社と差別化できるようなビジネスモデル・ノウハウを一切持っていないので、それを社員に教える必要がない
- 内製化にかかる工数や人材リソースを確保できない
- コンテンツ作成を外注するための予算が潤沢にある
NO.1:コンテンツ企画検討(コンセプトを考える)
コンテンツ内製化作業の最初に行うのは、「どんな内容のコンテンツを作成するのか?」という全体の方向性を決める作業です。これは、eラーニングの目的や対象者によって大きく変わります。
例えば、企業研修の一環として新入社員向けのビジネスマナーコンテンツを作成する場合と、管理職向けのマネジメントを学ぶコンテンツや、特定の資格試験対策のコンテンツとでは、学習の目的も学習の進め方もコンテンツ作成に必要な情報もまったく異なります。
この段階では、以下のポイントを明確にしましょう。
- コンテンツの目的(例:業務スキルの向上、資格取得支援、製品知識の習得、コンプライアンス、DX研修、情報セキュリティ研修 など)
- 対象となる受講者の属性(例:新入社員、中堅社員、ベテラン社員、管理職、役職の違い、業務経験の有無 など)
- どのような形式のコンテンツが適しているか(動画、スライド、アニメーション など。)
企画段階でしっかりとコンセプトを固めることで、後の制作工程を効率的にすすめることができます。
NO.2:学習対象者の設定と既存知識の分析(学習のスタート地点を決める)
次に、「このコンテンツは誰が学ぶのか?」を深掘りします。単に受講対象者の属性を明確にするのに加えて、その受講者が事前知識として何を知っている必要があるのか、もしくは、何を知らないのかを明確にします。これは言い換えると、このeラーニングコンテンツを受講できる前提条件を明確にすることと言えます。
例えば、営業担当者向けの営業スキルを学ぶeラーニングコンテンツを作成する場合で考えると、受講対象者に求める前提知識は以下のように異なってきます。
- 入社1年目で営業部門に配属されたばかりの新入社員向けの場合
- 新入社員研修でビジネスマナーだけは学んだ
- 自社の製品知識はまだない
- 業界の基礎知識もまだない
- 自社の営業プロセスや管理ツールの使い方もまだ理解できていない etc.
- 営業経験5年目社員向けの場合
- 自分自身が営業活動を行うのに必要なスキル・知識はすでに持っている
- 後輩に指導をした経験はない
- 指導をするために必要な○○の知識がない etc.
このように、事前知識・既存知識を明確にしておくことで、コンテンツに盛り込むべき内容が明確になり、コンテンツ制作を効率化できるとともに、以下の2つの意味合いで受講に適さない受講者をはじくことができ、受講者に無駄な研修を提供しなくて済むことにもつながります。
- 事前知識として知っているはずのことを知らない受講者:
- まだこのeラーニングを受講するレベルに達しておらず、受講しても理解ができないはずなので、受講を認めない
- 事前知識として知らないはずのことをすでに知っている受講者:
- このeラーニングで学ぶ内容をすでに習得しており、受講しても新たな知識の習得にはつながらないはずなので、受講を認めない
企業における社員教育と学校教育との一番の違いがこのあたりに表れてきます。学校教育というのは決められたカリキュラムを決められた時間を掛けて学ぶことがゴールであり、事前に学習塾等で学んてしまっている生徒であろうと、決められた時間数の授業を受けることが求められます。
一方で社員教育の目的は研修を受講することではなく、業務で成果をあげることです。そのため、自分のレベルに合わない研修を受ける暇があるなら仕事をした方がよいわけでして、そういう受講者には研修を受講させないようにすることも非常に重要なポイントとなります。
(eラーニングの効果測定の指標の1つとして、「総受講時間」を取ることがよくありますが、もちろんその数字にも一定の意味はありますが、受講時間が長ければ長い方が良いというわけではないということは頭に入れておく必要があると思います、、、という話はまたどこか別のところで書こうと思います)
NO.3:学習目標の設計(学習のゴール地点を決める)
学習コンテンツを作成するうえで、「このコンテンツを受講した後に、受講者は何ができるようになるのか?」というeラーニング研修受講のゴールを明確にすることが重要です。ゴールが事前に提示されていると、受講者はその研修を受講するべきかどうか自分で判断をすることが可能となります。
例えば、以下のような学習目標が考えられます。
- 自社の製品知識を学ぶコンテンツ → 受講後に「自社製品の強みを3つと、弱みと3つ挙げて具体的に説明できる」状態になる
- 営業スキルのコンテンツ → 受講後に「顧客のニーズをヒアリングする際の注意点を理解する」「提案書を作成することができる」「提案書を使って顧客にプレゼンテーションができる」「契約に至るまでの営業プロセスを理解している」という4つのことを習得した状態になる。 etc.
作成したコンテンツの受講によって獲得できる学習目標(=学習のゴール地点)を明確にすることで、「何を学ぶべきか」「どのような内容を重点的に扱うべきか」が分かり、コンテンツの設計がしやすくなります。
また、学習目標が明確になっていると、それを使ってeラーニング研修受講後に習得度合いを測定する「事後テスト」を行うことができるとともに、eラーニング受講前に「事前テスト」を行うことも可能となります。事後テスト・事前テストはそれぞれ以下のように利用します。
【事後テスト】
- テストに合格すると、eラーニング研修を修了したと認められる。
- テストに不合格だと、修了とは認められず、eラーニング研修を再受講することが求められる。
【事前テスト】
- テストに合格すると、必要な知識・スキルがすでにあるとみなされ、eラーニング研修を受講しなくてよい。
- テストに不合格だと、これから学ぶ内容がまだ身に付いていないとみなされ、eラーニング研修を受講することが認められる。
つまり、
事後テスト=合格→受講しない、不合格→受講する
事前テスト=合格→受講する、不合格→受講しない
のように、合格時と不合格時のアクションが逆になるというのがポイントです。
NO.4:コンテンツ構成の設計(全体の構成・目次を設計する)
コンテンツの企画が決まったら、次は「どのような順序で学習を進めるのが最も効果的か?」を考えます。
いうなれば、学習の入口と出口を決めた後に、入口から出口までの道筋・経路を決めるということです。
コンテンツは、一貫した流れで受講者が理解しやすいように構成する必要があります。例えば、以下のような大きな流れを作るとよいでしょう。
- 導入(学習の目的や重要性を説明)
- 基本知識の解説(基礎的な用語や概念を学ぶ)
- 応用・実践(具体的な事例や実際の業務に即した内容を学ぶ)
- まとめ(学習の振り返りや、確認テスト、eラーニングコンテンツの評価)
学習の効果を高めるためには、「最初に何を学び、次に何を学ぶべきか?」という流れをしっかり設計することが重要です。この流れを決めたら、そこから各章の構成を作り、章ごとの学習目標を決めていきます。
NO.5:章ごとの学習目標の設計(学習目標を細分化する)
コンテンツの全体的な学習目標を分解して、章やセクションの学習目標を決めていきます。
例えば、コンテンツ全体の学習目標が「A」「B」「C」の3つあり、「A」について第1章~第3章で学ぶとします。
そうすると、コンテンツ全体の学習目標「A」は3つに細分化され、第1章の学習目標が「A-①」、第2章の学習目標が「A-②」、第3章の学習目標は「A-③」となります。
さらに、第1章の下に節が3つあるとすると、第1章第1節の学習目標は「A-①-1」、第1章第2節の学習目標は「A-①-2」、第1章第3節の学習目標は「A-①-3」となります。
図で表すと以下のようになります。

このように、学習目標は構造化して設計することが重要です。そうすることで、最初に設定した学習目標とコンテンツの中身の間にずれが生じにくくなり、また、コンテンツの構成がロジカルで分かりやすいものになるため、学習効果を高めることができます。
NO.6:既存資料の収集・分析(コンテンツの元となる資料を収集・分析する)
コンテンツ制作の際に、すべてをゼロから作成するのは非効率です。そこで、社内にある既存の資料や文献、マニュアルなどを有効活用できないか検討します。
- 社内マニュアルやトレーニング資料(すでにある情報を流用可能)
- 過去の研修動画やプレゼン資料(コンテンツの一部として活用できる)
- 書籍や論文(専門的な知識の補足として利用)
既存の情報を活かすことで、時間とコストを節約しながら、質の高いコンテンツを作成することができます。
これらの資料をChatGPTなどに読み込ませて、コンテンツに使える部分を抽出することも、かなり簡単にできるようになってきました。そのあたりの手法もまた別途紹介していきたいと考えています。
NO.7:ヒアリング・インタビューの実施(専門家=SMEから情報を得る)
実務に役立つコンテンツを作成するためには、現場で活躍する専門家(SME: Subject Matter Expert)や関係者へのヒアリングやインタビューが有効です。
例えば、営業研修コンテンツなら、トップ営業マンにインタビューして成功事例を聞くことで、リアルな学びを提供できます。
インタビューを行う際のポイント:
- どのような知識やスキルが実際に役立つのか?
- どのようなミスがよくあるのか?
- 初心者がつまずきやすいポイントは何か?
実際の現場で使われているノウハウを反映することで、学習効果が高まるコンテンツを作成できます。
ここまで、eラーニングコンテンツ制作における企画・設計の7つのステップについて詳しく解説しました。
しっかりとした設計を行うことで、学習効果の高いコンテンツを作成することができます。
eラーニングコンテンツ内製化の4つのコンテンツパターン
eラーニングコンテンツの制作方法さまざまありますが、今回は以下の4つのコンテンツパターンを取り上げます。それぞれの特徴を解説します。
① スライド+プロナレーション
PowerPointの機能として、スライドに音声を録音する機能があります。これを利用して、PowerPointスライドとナレーション音声とが同期したeラーニングコンテンツ(動画)を作成することができます。プロのナレーターに依頼することにより、音声合成ソフトを使うよりも自然なナレーションになります。プロに頼まずに自分で声を録音することも可能です。
また、スライド単位で録音することができるため、後日修正があった場合も、スライドごとに修正・差し替えが可能です。
【特徴】
- 視覚と聴覚の両方で学習できるため、理解しやすい
- 収録した音声をスライドが同期して動作する
- プロのナレーションを依頼するため、音声収録のコストが発生する(プロに依頼せずに自分の声で録音することも可能)
② スライド+音声合成
PowerPointスライドに、音声合成ソフトウェアで作成したナレーション音声を組み合わせて、スライドと音声が同期した動画コンテンツを作成します。最近の音声合成ソフトの品質は、人が話すものと遜色ないレベルになってきました。特に、頻繁に改訂されるコンテンツの場合は、ナレーションの録り直しを避けることができるため、コストを抑えながらeラーニングコンテンツをアップデートするには音声合成の利用が向いています。
【特徴】
- 音声の変更・修正が容易なため、頻繁に更新されるコンテンツに向いている
- プロのナレータに依頼する手間やコストがかからない
- 音声合成の品質によっては、聞き取りやすさに差が出る
③ アニメーション+プロナレーション
アニメーションを活用した動画コンテンツにプロのナレーションを加える形式です。この方法は、特に抽象的な概念やプロセスを視覚的に分かりやすく伝えるのに適しています。例えば、ビジネス研修や製品の仕組み説明、企業理念の紹介など、テキストや静止画だけでは伝わりにくい内容を効果的に表現できます。
【特徴】
- 抽象的な概念を分かりやすく伝えられる
- アニメーション制作のスキルやツールが必要(生成AIでアニメーションを作れるツールを活用するのも良い)
- プロのナレーションを依頼する場合、コストがかかる
④ 講義映像のスタジオでの撮影
講師が講義を行う姿をブルーバック/グリーンバックのスタジオで撮影し、PowerPointスライドと合成して動画コンテンツを作成します。eラーニングとして販売するために講座コンテンツを新規制作するケースで、スライドと映像を合成した見た目もリッチでわかりやすいコンテンツになりますが、スタジオでの撮影が必要となるため、講師の拘束時間が長くなるため負担は大きくなり、コストも掛かります。
ただ、逆にいうと、講師一人がスタジオに出向いて撮影すれば、編集された動画ファイルが納品されてくるため、講師以外の稼働がほとんど掛からないとも言えます。
【特徴】
- 視聴者に臨場感を与えられる
- 撮影機材や編集スキルが必要
- 撮影スタジオの手配やスケジュール調整が必要
次回以降は、4つのコンテンツパターンのそれぞれについて、作業項目をご紹介します。次回(第2回)は、「スライド+プロナレーション」のパターンの内製化作業を具体的に解説します。
▼関連資料 さらに内製化のメリット・デメリットを詳しく知りたい方!
なお、作成したコンテンツを自社でLMSをもって実施するか、公開されたプラットフォームを利用するかは、「eラーニングビジネスを始める際に必要なものとは?」~LMSとコンテンツの重要性とは? 自社でLMSを持つべきか?」をご覧ください。
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