はじめに
昨今、DXの推進やリモートワークの普及に伴い、企業における「eラーニング」や「オンライン研修」の導入が当たり前になりました。
しかし、現場の人事担当者からは、以下のような悩みの声も多く聞かれます。
「研修動画を作ったが、社員が見てくれない」
「eラーニングを導入したが、実務の成果に結びついている気がしない」
その原因の多くは、「教え方の設計」が不十分なことにあります。
本記事では、教育効果を最大化するための科学的な手法「インストラクショナルデザイン(ID)」について、その定義から実践のための「ADDIEモデル」、導入メリットまでを3分で解説します。
1. インストラクショナルデザインをひとことで言うと?
インストラクショナルデザイン(Instructional Design / ID)とは、一言で言うと「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための設計手法」のことです。
勘や経験則に頼るのではなく、人間が学習するプロセス(認知科学など)に基づき、「どう教えれば、最短で成果が出るか?」をシステム的に設計するアプローチを指します。日本語では「教授設計」とも呼ばれます。
【用語の要約】
- 目的:学習の効果(Effectiveness)、効率(Efficiency)、魅力(Appeal)の最大化
- 対象:教育担当者、研修講師、教材開発者
- 英語:Instructional Design(ID)
- 単なる「教材作成」との違い:
- 教材作成=スライドや動画という「モノ」を作ること。
- ID=「誰に、何を、どう教えればゴールに達するか」という「プロセス」全体を設計すること。
2. なぜ今、インストラクショナルデザインが重要なのか
集合研修(対面授業)では、講師が受講者の顔色を見て、その場で教え方を調整することができました。しかし、eラーニングではそれができません。
特に近年、以下の背景からIDの重要性が急速に高まっています。
- eラーニングの形骸化:
「マニュアルをPDFにして置いておくだけ」「講義動画の録画を流すだけ」では、学習者が飽きてしまい、知識が定着しないことが明らかになったため。 - リスキリング(学び直し)の必要性:
短期間で新しいスキルを習得させる必要があり、「効率的に教える技術」が経営課題となったため。 - 研修コストの最適化:
「効果のない研修」を減らし、教育投資のROI(費用対効果)を説明する責任が人事部門に求められているため。
3. 企業が導入するメリット・デメリット
IDの理論を取り入れて研修を設計することで、以下のような変化が生まれます。
導入のメリット
- 教育効果の向上(できるようになる):
「わかったつもり」で終わらせず、実務で使えるレベルまで引き上げることができます。 - 学習時間の短縮(効率化):
不要な情報を削ぎ落とし、学習者に最適なルートを示すことで、忙しい社員の時間を奪わずに済みます。 - 研修品質の均質化(脱・属人化):
「あの講師の時は分かりやすいのに」といったバラつきを減らし、誰が受けても一定の成果が出る仕組みを作れます。
デメリット・注意点
- 設計に時間がかかる:
いきなりスライドを作り始めるのではなく、「分析」に時間を割くため、着手から完成までの初期工数は増える傾向にあります。 - 専門知識が必要:
社内にIDの専門家(インストラクショナル・デザイナー)がいない場合、習得にコストがかかります。
4. 具体的な実践ステップ(ADDIEモデル)
インストラクショナルデザインを実践する際、世界的に最も使われているフレームワークが「ADDIE(アディー)モデル」です。以下の5つのプロセスを回して研修を開発します。

- Analysis(分析):
現状の課題は何か? ゴール(学習目標)は何か? 受講者のレベルは? を分析します。ここが最も重要です。 - Design(設計):
分析結果に基づき、カリキュラムの構成、評価方法(テスト)、教材の形式などを設計します。 - Development(開発):
設計図に基づき、実際にスライド、動画、テキスト、eラーニングコンテンツを作成します。 - Implementation(実施):
LMS(学習管理システム)への搭載、受講者への案内、研修の実施を行います。 - Evaluation(評価):アンケートやテスト結果、行動変容などを評価し、次の改善(分析フェーズ)へと繋げます。
5. インストラクショナルデザインに関するよくある質問(FAQ)
ID導入を検討する人事担当者からよく寄せられる疑問にお答えします。
- Q1. インストラクショナルデザインは「eラーニング」専用の手法ですか?
- A. いいえ、違います。対面研修、OJT、マニュアル作成など、あらゆる「教育活動」に適用可能です。ただし、講師のフォローが効きにくいeラーニングにおいて、特にその効果を発揮します。
- Q2. IDを取り入れるには、専門の資格が必要ですか?
- A. 必須ではありませんが、熊本大学大学院の教授システム学専攻など専門的な機関で学ぶ専門家(インストラクショナル・デザイナー)も存在します。まずは「ADDIEモデル」や「カークパトリックの評価モデル」などの基本フレームワークを意識するだけでも、研修の質は大きく変わります。
- Q3. 外部の制作会社に依頼する場合、どこを見れば良いですか?
- A. 「きれいな動画が作れるか」だけでなく、「IDの知見があるか(設計意図を説明できるか)」を確認することをおすすめします。見た目が良くても、学習効果が低い教材になってしまうのを防ぐためです。
6. 効果的な運用のカギは「IDに基づく教材制作」と「LMS」
インストラクショナルデザインを自社だけで完璧に実践するのは、時間とリソースの面でハードルが高いのが現実です。
「理論はわかったけれど、実際に効果的な教材を作るリソースがない」
「作った教材をどう管理・運用すればいいかわからない」
そのような課題をお持ちの場合は、専門家の力を借りるのが近道です。
クオークの「eラーニングラボ」では、インストラクショナルデザインの知見に基づいた効果的なオリジナル教材制作から、学習を定着させるLMS(学習管理システム)の導入支援までをワンストップでサポートしています。「ただ作るだけ」ではない、成果に繋がる人材育成を支援します。
7. まとめ
- インストラクショナルデザイン(ID)とは、教育の効果・効率・魅力を高めるための「設計手法」である。
- 「ADDIEモデル」という5段階(分析・設計・開発・実施・評価)のプロセスを回すことが基本。
- eラーニングの効果が出ない場合は、ツールではなく「設計」を見直すことで改善する場合が多い。
▼ 次のアクション 自社の研修効果を高めたい、IDに基づいた教材を作りたいとお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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