SCORM(スコーム)

目次

はじめに

「LMS(学習管理システム)をリプレイスしたら、今まで使っていた教材が動かなくなった」
「教材制作会社に発注したら『SCORMのバージョンはどうしますか?』と聞かれて、言葉に詰まってしまった」
「テストの点数が正しく管理画面に反映されず、受講完了にならない」

eラーニングの運用において、こうしたトラブルの原因の9割は、「SCORM(スコーム)」という規格への理解不足から生じています。

SCORMは、eラーニングにおける「世界標準のルールブック」です。これを知らずにシステムや教材を選ぶことは、サイズを確認せずに電球を買うようなもので、非常に危険です。

本記事では、SCORMの仕組みや役割、バージョンによる違い(1.2と2004)、そして最新規格である「xAPI」との関係について、非エンジニアの方にも分かりやすく解説します。

1.SCORMをひとことで言うと?

SCORM(Sharable Content Object Reference Model)とは、一言で言うと「eラーニング教材とLMS(学習管理システム)を繋ぐための、世界共通の統一規格」のことです。

もっと身近なもので例えると、「コンセントの形状」や「USBの規格」と同じです。家電製品(=教材)のメーカーが違っても、コンセント(=LMS)の形が決まっていれば、どこに挿しても電気は流れます。同様に、SCORMというルール守って作られた教材であれば、どのメーカーのLMSに載せても、問題なく再生され、学習履歴が記録されます。

【用語の要約】

  • 目的:異なるメーカー間での「互換性」と「再利用性」の確保
  • 対象:eラーニング教材、LMS(学習管理システム)
  • 読み方:スコーム
  • 役割:「どこまで学習したか」「テストは何点だったか」などのデータを、教材とLMSの間でやり取りするルールの定義。

2.なぜSCORMが生まれたのか(歴史的背景)

SCORMが登場する以前(1990年代後半)は、eラーニング業界は「カオス」な状態でした。

SCORM以前:ベンダーロックインの時代

A社のLMSには、A社の作った教材しか載りませんでした。B社のLMSにはB社の教材しか載りません。企業が「LMSはA社のものが使いやすいけど、教材はB社のコンテンツが優秀なんだよな」と思っても、それらを組み合わせて使うことができなかったのです。一度A社のシステムを入れたら、未来永劫A社の教材を買い続けるしかない、いわゆる「ベンダーロックイン(囲い込み)」の状態でした。

SCORM以後:自由な組み合わせの時代

これではeラーニングが普及しないと考えた米国国防総省(ADL)が中心となり、「みんなで共通のルールを作ろう」と策定されたのがSCORMです。これにより、ユーザー企業は「システムはA社、教材はB社とC社」といったように、最適なものを自由に組み合わせて選べるようになりました。この「相互運用性」こそが、SCORMの最大の功績です。

3.SCORMの仕組み(LMSと教材の会話)

では、具体的にSCORMは何をしているのでしょうか?難しく考えず、「LMS教材の間で行われる会話」だとイメージしてください。

例えば、社員がテスト付きのeラーニングを受講している時、裏側では次のような通信が行われています。

  1. 起動時(Initialize)
    • 教材:「これから学習を開始します。前回の続きから再生したいので、どこまでやったか教えてください(cmi.suspend_dataの要求)」
    • LMS:「了解。前回は15ページまで進んでいます。続きからどうぞ」
  2. 学習中(Commit)
    • 教材:「受講者が16ページに進みました。記録をお願いします」
    • LMS:「はい、記録しました」
  3. テスト実施時(Set Value)
    • 教材:「受講者がテストを受けました。点数は85点でした(cmi.score.rawの送信)」
    • LMS:「了解。85点ですね。合格ラインを超えているので『修了(Completed)』ステータスに変更します」
  4. 終了時(Terminate)
    • 教材:「学習を終了します。お疲れ様でした」
    • LMS:「通信を切断します」

このように、「いつ」「誰が」「どのくらい進んで」「何点取ったか」というデータを、決まった言葉(データ項目・通信プロトコル)でやり取りすることで、正確な進捗管理を実現しています。

4.「1.2」と「2004」どっちを選べばいい?

SCORMにはいくつかのバージョンがありますが、現在市場で使われているのは実質2つだけです。「SCORM1.2」「SCORM2004」です。

SCORM1.2(デファクトスタンダード)

  • 特徴:2001年にリリースされた古い規格ですが、現在でも世界で最も普及しています。
  • メリット:シンプルで動作が軽く、ほぼ全てのLMSが対応しています。
  • デメリット:「章立て」や「条件分岐(テストに合格しないと次に進めない)」といった複雑な制御が苦手です。

SCORM2004(高機能版)

  • 特徴:1.2の弱点を克服した上位版です(第3版、第4版などがあります)。
  • メリット:「シーケンス制御」という機能があり、「第1章を見終わるまでは第2章のボタンを押せなくする」といった制御が標準機能で可能です。また、学習時間の記録などがより詳細にできます。
  • デメリット:仕様が複雑で、古いLMSだと対応していない場合があります。

結論:どっちがいい?

基本的には「SCORM1.2」を選んでおけば間違いありません。互換性が最も高く、トラブルが少ないからです。ただし、「厳密な受講制御をしたい(飛ばし見防止を徹底したい)」場合や、LMSが最新のものである場合は、「SCORM2004」を選ぶメリットがあります。制作会社に発注する際は、「自社のLMSがどのバージョンに対応しているか」を必ず事前に確認してください。

5.SCORMの限界と、次世代規格「xAPI」

長らく業界標準として君臨してきたSCORMですが、スマホ時代の到来とともに限界が見えてきました。

  1. 「LMSの中」でしか記録できない
    SCORMは「LMSにログインして教材を開く」ことが前提です。YouTubeでの学習や、Web記事を読んだこと、リアルな研修への参加などは記録できません。
  2. オフラインに弱い
    常にLMSと通信し続ける必要があるため、電波の悪い場所や、オフライン状態での学習データの保存が苦手です。

そこで登場したのが、「xAPI(Experience API/TinCan API)」という次世代規格です。これは「あらゆる学習体験(Experience)」を記録できる規格です。「LMSの外」での活動も記録でき、スマホアプリのオフライン学習とも相性が良いため、徐々に普及し始めています。しかし、現状ではまだSCORM1.2の方が普及率が高い状態です。

6.SCORMに関するよくある質問(FAQ)

  • Q1.動画ファイル(MP4)をLMSにアップするのと、SCORMは何が違うのですか?
    • A.MP4をただ置いただけでは、「再生したかどうか(クリックしたか)」くらいしか分かりません。「最後まで見たか(完了条件)」「途中で止めた場合の再開位置(レジューム機能)」を管理したいなら、動画をSCORM形式のパッケージ(ZIPファイル)に変換してアップロードする必要があります。
  • Q2.SCORM教材を内製(自作)できますか?
    • A.可能です。ただし、プログラムを一から書くのは困難なので、「オーサリングツール」(iSpring、Articulate、Adobe Captivateなど)と呼ばれる専用ソフトを使います。これを使えば、PowerPointで作ったスライドをボタン一つでSCORM形式に書き出すことができます。
    •  
  • Q3.SCORM対応と書いてあるのに動きません。
    • A.よくある原因は3つです。
      1. バージョン違い(LMSが1.2のみ対応なのに、教材が2004で作られている)。
      2. Flash問題(古い教材の中に、現在再生できないFlashファイルが含まれている)。
      3. ZIP圧縮の階層ミス(解凍せずにアップロードすべきところを、フォルダ構成をいじってしまった)。

7.成功のカギは「トラブルへの対応力」

SCORMは便利な規格ですが、万能ではありません。「PCでは動くのにスマホだと完了にならない」「特定のブラウザだけでエラーが出る」といった相性問題が頻繁に起こります。

これを解決するには、「LMSの仕様」と「教材の内部構造(マニフェストファイル等)」の両方を理解している専門家の存在が不可欠です。「教材制作会社」と「システム会社」が互いに責任を押し付け合う(たらい回しにされる)のが、担当者にとって最悪のパターンです。

クオークでは、「教材制作」と「LMS導入」の両方をワンストップで提供しています。

  • 「他社で作った古いSCORM教材を、最新のLMSで動くように改修したい」
  • 「PowerPoint資料をSCORM化して、受講履歴を取りたい」
  • 「謎のエラーが出て困っている」

といった技術的なご相談にも、専任のエンジニアが即座に対応します。「動かない」ストレスから解放されたいご担当者様は、ぜひご相談ください。

8.まとめ

  • SCORMとは、教材とLMSを繋ぐための「世界標準の接続ルール(コンセントの規格)」。
  • これがあるおかげで、異なるメーカーの教材とLMSを自由に組み合わせることができる。
  • 基本は「SCORM1.2」が主流だが、スマホ対応や詳細な記録には限界があり、次世代の「xAPI」へ移行しつつある。

▼次のアクション「手持ちの動画やPPTをSCORM化したい」「LMS移行時の教材トラブルを解決したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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