はじめに:インストラクショナルデザインとAIの融合による新たな教材開発
教材開発において最も重要な工程は、学習の土台を作る「カリキュラム設計」です。カリキュラムとは単なる目次ではなく、学習者が体系的に知識を習得し、実践的なスキルを獲得するための精緻な道筋そのものです。
私は富士通株式会社およびDMG森精機と野村総合研究所の合弁会社テクニウムなどで数多くの人材育成プロジェクトをリードし、インストラクショナルデザイン(Instructional Design:ID)理論に基づく効果的な教材設計を実践してきました。その経験を基に現在ではエデュニア株式会社を通じて、生成AI(特にChatGPT)を駆使し、教育コンテンツ開発の効率化・高度化を支援しています。
本稿では、私が蓄積してきたインストラクショナルデザインのノウハウを基盤に、ChatGPTを用いた効果的なカリキュラム設計の具体的な手法と実践例を解説します。 (執筆者:エデュニア株式会社 代表取締役 千葉佑介)
本シリーズの構成
本記事は全10本シリーズの4本目です。ぜひシリーズ全体を通してお読みください。
- 第1回:生成AIで教育コンテンツ制作が劇的に変わる!最新プロセス徹底解説
- 第2回:テーマ選定とリサーチを効率化する|AIを活用した効果的な情報収集術
- 第3回:プロレベルのコンセプト設計を実現|NottaAI+ChatGPTで思い通りのコンテンツ設計を
- (本記事)第4回:教材制作の要|ChatGPTで作る効果的なカリキュラム設計のポイント
1.インストラクショナルデザイン理論が示すカリキュラム設計の重要性
インストラクショナルデザインとは、学習者が効果的かつ効率的に学習成果を上げられるように教材や学習環境を設計する体系的アプローチです。中でもよく知られるADDIEモデル(分析・設計・開発・実施・評価)やガニェの「9教授事象」、メリルの「第一原理」などは、私たちが教材を設計する際の重要なフレームワークとなっています。
たとえば、ロバート・ガニェが提唱した「9教授事象」は、学習者が新たな知識やスキルを習得するプロセスを段階的に示しています。これにより学習者がスムーズに理解を深められるよう、教材設計を進めることが可能です。
2.優れたカリキュラム設計を支える4つの要素
私がインストラクショナルデザインを通じて培った知見から、優れたカリキュラム設計には以下の4つの要素が不可欠であると考えます。
①明確な学習目標の設定
インストラクショナルデザイン理論では、学習目標をSMART(Specific:明確である、Measurable:測定可能である、Achievable:達成可能である、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)に設定することが推奨されています。これにより、学習者のモチベーション向上と具体的な学習成果の達成が期待できます。
②学習者分析(Learner Analysis)
教材が対象とする受講者層を詳細に分析することで、適切なレベル感、用語、コンテンツの深さを設計できます。前提条件や既存の知識・スキルレベルを設定し、カリキュラムの内容とレベル感を最適化することができます。
③段階的・体系的な学習構造の構築
ガニェの「9教授事象」では、学習者が順序立てて学ぶことで理解度が深まると示されています。学習内容を体系的かつ階層的に組み立て、学習者が基礎から応用へと自然に進む流れを作ることが重要です。
④評価(Assessment)とフィードバックの設計
適切な評価手法を組み込み、学習の進捗を測定し、フィードバックを行います。これにより学習者が自分の学習状況を客観的に把握し、次のステップへと進みやすくなります。
3.ChatGPTを活用したカリキュラム作成の具体的なプロセス
インストラクショナルデザイン理論を実践に落とし込む際、ChatGPTは強力なツールとなります。以下に、私たちが実践しているプロセスをご紹介します。
【Step1】学習目標と対象者をAIに明示する(プロンプト設計)
最初に明確なプロンプトをChatGPTに与えます。
例:「新任マネージャー向けに『フィードバックを活用したコーチングスキルの習得』を目的とした4時間のワークショップ用カリキュラムを設計してください。対象者の前提条件はマネジメント未経験者とします。」
【Step2】ChatGPTによる初期カリキュラム作成と詳細化
AIが提示した初期のカリキュラムを検討し、さらに具体化するための質問を追加します。
たとえば:
- 「具体的に各セクションで取り上げる内容をリストアップしてください」
- 「各セクションの学習ゴールを明確に示してください」
- 「初心者がつまずきやすいポイントと、その対策を記述してください」
これにより、AIがカリキュラムの質を高めるように促します。
【Step3】人間による最終的な精査・チェック
AIからの出力を最終的に確認し、論理的整合性、教育理論に基づいた内容の正確性をチェックします。教材が受講者視点で無理なく理解できるか、各セクションの接続がスムーズであるかを確認します。
4.人間の専門性を活かしたチェックの重要性
生成AIは強力ですが、あくまで人間の専門性や教育理論に基づく経験があってこそ最大の効果を発揮します。
特に次の点を重点的にチェックしています:
- AI生成内容の教育工学理論への適合性(ADDIEモデル、ガニェの教授事象)
- 学習者心理を考慮した構造化(学習負荷の軽減、モチベーション維持)
- 使用する用語や表現の適切性、明快さ
おわりに:教育理論×AIで実現する効果的な教材制作へ
私たちエデュニアは、インストラクショナルデザインの体系的な教育工学理論を基盤として、生成AIとの最適な融合を追求しています。その結果、教育効果の高い教材を圧倒的なスピードで提供することが可能になりました。
教材設計をこれまでにない効率と品質で実現したい方は、ぜひエデュニアまでお気軽にご相談ください。下記のリンク先からクオークさん宛にお問い合わせをいただけましたらお返事を差し上げます。
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参考文献:
- Gagné, R. M., Wager, W. W., Golas, K. C., & Keller, J. M. (2004). Principles of Instructional Design (5th ed.). Wadsworth Publishing.
- Merrill, M. D. (2002). First Principles of Instruction. Educational Technology Research and Development, 50(3), 43-59.
- Dick, W., Carey, L., & Carey, J. O. (2014). The Systematic Design of Instruction (8th ed.). Pearson Education.
著者プロフィール
千葉 佑介(ちば ゆうすけ)

エデュニア株式会社代表取締役、H&Sホールディングス株式会社最高執行責任者(「ぼくのAIアカデミー事業担当」)を勤める傍ら、岩手県立大学ソフトウェア情報学研究科博士後期課程で製造業における教育サービスのDX関連の研究に従事。
熊本大学人文社会科学研究科教授システム学専攻博士後期課程卒。富士通株式会社で大学ビジネス営業企画と事業企画に携わった後、DMG森精機と野村総合研究所の合弁組織であるテクニウム株式会社にてDX教育サービスを立上げ、経済産業省補助事業「デジタルものづくり実践講座」のプロジェクトディレクターを務めた。
その後、AIリテラシーや生成AI活用に関する講座やワークショップを多数実施すると共に、生成AIと教育工学を駆使した教材制作および教育事業のDXコンサルティングに奔走中