はじめに
「1on1を導入したが、上司が一方的に話して終わっている」 「『最近どう?』と聞いても『特にありません』と返され、沈黙が気まずい」 「ただの雑談になってしまい、やる意味があるのか疑問だ」
アメリカのシリコンバレー企業などでの成功事例を受け、日本でも「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」を導入する企業が急増しました。しかし、形だけ導入したものの、現場の管理職が運用に疲弊し、形骸化しているケースが後を絶ちません。
本記事では、1on1の本来の目的や、従来の人事面談との決定的な違い、管理職が絶対にやってはいけないNG行動、そして「話すことがない」を解決するための具体的なアジェンダ例について、詳しく解説します。
1. 1on1ミーティングをひとことで言うと?
1on1ミーティングとは、一言で言うと「上司と部下が、定期的に(週1回〜月1回)、短い時間(30分程度)で行う対話」のことです。
最も重要な定義は、「部下のための時間」であるということです。 上司が業務の進捗を確認するための「管理の時間」ではありません。部下が経験を振り返り、悩みやキャリアについて話すことで成長を促す「育成の時間」です。
【用語の要約】
- 目的:信頼関係の構築、部下の成長支援、エンゲージメント向上
- 対象:全従業員(主に上司と部下のペア)
- 英語:1-on-1 Meeting
- 人事評価面談との違い:
- 評価面談:過去の評価を伝える場(上司主導 / 半年に1回)
- 1on1:未来の成長や現状の悩みを話す場(部下主導 / 高頻度)
2. なぜ今、1on1が必要なのか
かつては「飲みニケーション」や「喫煙所」が、非公式なコミュニケーションの場として機能していました。しかし、それらが消滅し、さらにリモートワークが普及した現代では、「意識的に対話の場を作らない限り、業務以外の会話がゼロになる」という状況が生まれています。
① VUCA時代のマネジメント変革
ビジネス環境の変化が激しく、上司も正解を持っていません。上司が「答え」を指示命令するティーチング型から、対話を通じて部下の「気づき」を引き出し、自律的に動ける人材を育てるコーチング型へと、マネジメントスタイルの変革が求められています。
② 心理的安全性の確保
「何かあったら相談して」と言っても、部下は相談しません。定期的に時間を確保することで、「いつでも話を聞いてもらえる」という安心感(心理的安全性)が醸成され、バッドニュース(トラブル報告)も早く上がるようになります。
③ 離職防止(リテンション)
優秀な若手ほど、「自分のキャリアを見てくれているか」を重視します。フィードバックのない環境では成長実感を持てず、組織へのエンゲージメントが低下します。1on1は最強のリテンション施策でもあります。
3. 企業が導入するメリット・デメリット
メリット
- 信頼関係(ラポール)の構築:業務以外の価値観や体調を知ることで、相互理解が深まります。「上司は自分を一人の人間として見てくれている」という感覚が信頼を生みます。
- 経験学習の促進:「あの仕事、やってみてどうだった?」と振り返りを促すことで、失敗や成功を学びに変えることができます(コルブの経験学習モデル)。
- 潜在課題の発見:本人が自覚していない悩みや、組織の問題点を早期にキャッチアップできます。
デメリット・課題
- 管理職の負担増:部下が多い管理職にとっては、時間の捻出が大きな負担になります。例えば部下が10人いて毎週30分実施すると、週5時間が1on1に取られます。
- スキルのバラつきによる逆効果:「傾聴」や「コーチング」のスキルがない上司が行うと、説教や尋問になってしまい、かえって部下のモチベーションを下げてしまいます。これが失敗の最大要因です。
4. 要注意!1on1でやってはいけない3つのNG行動
良かれと思ってやったことが、部下の心を閉ざしてしまうことがあります。管理職が陥りがちな3つの罠を紹介します。
NG① 進捗確認(マイクロマネジメント)に終始する
「あの件どうなってる?」「まだ出来てないの?」 これは1on1ではなく、ただの「業務報告」です。部下は「詰められる時間」だと感じ、苦痛になります。進捗確認は朝会やチャットで行い、1on1では「進める上で困っていること」や「そこから得た気づき」に焦点を当ててください。
NG② すぐに自分の経験談を語り出す
部下:「ここが上手くいかなくて…」 上司:「あー分かるよ。俺も若い頃はさ…(以下10分間の武勇伝)」 部下の話を遮り、自分のアドバイスや過去の自慢話をしてしまうパターンです。1on1は上司の演説の場ではありません。グッとこらえて「そうなんだ、具体的にはどういう状況?」と深掘りする質問を投げかけてください。
NG③ パソコンを見ながら話を聞く
「忙しいから」といって、メールを打ちながら、画面を見ながら話を聞くのは論外です。「あなたの話は聞く価値がない」というメッセージになり、信頼関係は一瞬で崩壊します。オンラインであってもカメラをオンにし、相手の目を見て「傾聴」の姿勢を示してください。
5. 「話すことがない」を防ぐ7つのアジェンダ例
1on1が失敗するのは「準備不足」が原因です。以下の7つのテーマから、その時々に合ったものを選んで話すようにします。
- プライベート・体調(アイスブレイク) 「最近よく眠れている?」「休日は休めた?」 ※心身のコンディション把握は最優先です。
- 業務の振り返り(経験学習) 「先週の仕事でうまくいったことは?」「逆に躓いたことは?」 ※進捗確認ではなく、そこからの「学び」を聞きます。
- 組織課題の共有 「チームについて気になっていることはある?」「もっとこうしたら良いと思うことは?」
- キャリア・能力開発 「将来やってみたい仕事は?」「今身につけたいスキルは?」 ※半年〜数年単位の話をします。
- 業務支援の申し出 「私(上司)がサポートできることはある?」「障害になっていることはない?」
- 戦略・方針の浸透 会社の方向性についての疑問解消。「なぜあの施策をやるのか」の腹落ちを助けます。
- 緊急ではない重要事項 日々のチャットでは流れてしまうような、漠然としたアイデアや不安。
6. 1on1ミーティングに関するよくある質問(FAQ)
- Q1. どのくらいの頻度でやるべきですか?
A. 理想は「週1回・30分」または「隔週・30分」です。月1回だと間隔が空きすぎて、「最近どう?」の思い出話で終わってしまい、タイムリーな支援ができません。短くても回数を重ねる(ザイオンス効果)ことが信頼関係構築には有効です。 - Q2. 部下が何も話してくれません。
A. 最初は沈黙があっても構いません。無理に聞き出そうとせず、「今日は雑談でもいいよ」とハードルを下げてください。また、上司自身の失敗談など(自己開示)を話すと、部下も話しやすくなります。「沈黙は思考している時間」と捉え、待つ姿勢も重要です。 - Q3. 忙しい時はスキップしてもいいですか?
A. なるべく避けるべきです。上司都合で頻繁にキャンセルすると、「自分(部下)の優先度は低いんだ」というメッセージとして受け取られ、信頼を損ないます。どうしても時間が取れない場合は、時間を短縮してでも実施するか、必ずリスケジュールしてください。
7. 成功のカギは「管理職へのスキルトレーニング」
1on1を制度として導入するだけでは、必ず失敗します。ボトルネックになるのは「管理職の対話スキル」です。
これまで「指示・命令」で育ってきた管理職世代に、いきなり「傾聴・コーチング・フィードバック」を求めても無理があります。かといって、全員を外部の対面研修に送るにはコストと時間がかかります。
そこで有効なのが、eラーニング(マイクロラーニング)によるスキル習得です。
- 「良い1on1 / 悪い1on1」の実演動画を見て、イメージを掴む。
- 「傾聴の基本スキル(うなずき、繰り返し、要約)」をスマホで予習する。
- 「フィードバックの型(SBI型など)」を学ぶ。
このような学習機会を提供することで、管理職の不安を取り除き、対話の質を標準化できます。
クオークでは、1on1の導入支援として、管理職向けのコーチング動画教材の制作や、効果的な運用のためのガイドライン作成などを支援しています。「形だけの1on1」を「人が育つ本物の1on1」に変えるお手伝いをします。
8. まとめ
- 1on1ミーティングとは、部下の成長と信頼関係構築のために行う「部下のための時間」。
- 指示や評価ではなく、「対話(傾聴・コーチング)」によって気づきを引き出すことが目的。
- 進捗確認や上司の自慢話などの「NG行動」を避け、管理職のスキルアップ(研修)を行うことが成功のカギ。
▼ 次のアクション
「管理職向けの1on1研修動画を作りたい」「ガイドラインを整備したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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