はじめに
「給料や待遇は悪くないはずなのに、社員の活気がなく、言われたことしかやらない」
「優秀な若手が『ここではこれ以上成長できない』と言って、突然辞めてしまう」
「エンゲージメントサーベイを実施したが、結果が悪く、どこから手を付けていいか分からない」
かつての人事管理では、「従業員満足度(ES)」を高めれば、社員は定着し、会社は成長すると信じられていました。しかし、終身雇用が崩壊し、ビジネス環境が激変する現代において、単に「満足して居心地が良い」だけでは、企業の競争力には繋がりません。
そこで新たに、経営の最重要指標として注目されているのが「エンゲージメント(Engagement)」です。本記事では、エンゲージメントの学術的な定義から、満足度との決定的な違い、スコアを高めるための「3つのドライバー」、そしてサーベイ疲れを防ぎ、確実に組織を変えるためのアクションプランについて解説します。
1.エンゲージメントをひとことで言うと?
人事領域におけるエンゲージメント(ワーク・エンゲージメント)とは、一言で言うと「従業員の会社に対する信頼・愛着心と、仕事に対する情熱(活力)が合わさった、ポジティブな心理状態」のことです。
学術的には、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱した以下の3要素が揃った状態と定義されます(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)。
- 活力(Vigor):仕事をしていると活力がみなぎる、精神的な回復力が高い。
- 熱意(Dedication):仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組んでいる。
- 没頭(Absorption):仕事にのめり込み、時間が経つのを忘れてしまう。
つまり、会社と社員が対等な関係で選び合い、「会社の目標達成が、自分の成長にも繋がっている」と腹落ちして、主体的に貢献しようとする姿勢を指します
【用語の要約】
- 目的:労働生産性の向上、離職率の低下(リテンション)、顧客満足度の向上
- 対象:全従業員
- 英語:Employee Engagement / Work Engagement
- キーワード:人的資本経営、自律型人材、ジョブ・クラフティング
2.「従業員満足度(ES)」とは何が違うのか
ここが最も誤解されやすいポイントです。「満足度」と「エンゲージメント」は、似て非なるものです。
①向いているベクトルの違い
- 従業員満足度(ES):
- ベクトルは「会社から自分へ(受け身)」です。「給料が良い」「福利厚生が充実している」「残業が少ない」など、会社から与えられる環境への評価です。
- これが高いと「辞めない」確率は上がりますが、「頑張る」とは限りません。いわゆる「ぶら下がり社員」を生むリスクがあります。
- エンゲージメント:
- ベクトルは「自分から仕事・会社へ(能動的)」です。「もっと良い商品を創りたい」「チームに貢献したい」という、貢献意欲や情熱です。
- これが高いと、業績向上やイノベーションに直結します。
②業績との相関関係
満足度が高くても業績が良いとは限りませんが、エンゲージメントと業績(営業利益率、生産性)の間には、多くの調査で「強い正の相関」が証明されています。「働きやすさ(満足度)」と「働きがい(エンゲージメント)」の両立こそが、最強の組織を作ります。
3.なぜ今、エンゲージメントが最重要KPIなのか
エンゲージメントは、今や「企業の健康診断」における最重要項目となっています。その理由は主に3つあります。
①人材流動化への対抗策(リテンション)
転職が当たり前になった今、優秀な人材ほど「自分の市場価値を高められる環境」を求めます。「給料が高い」だけでは引き留められません。「この会社には自分が貢献する意義がある(パーパスへの共感)」「ここなら成長できる」というエンゲージメントこそが、最強の離職防止策となります。
②人的資本情報の開示義務
投資家も「エンゲージメントスコア」に注目しています。2023年からの人的資本情報開示の義務化(ISO30414等)に伴い、このスコアが低い企業は、「人材が流出しやすく、将来の成長リスクが高い」と判断され、株価にも悪影響を与えるようになっています。
③少子化と労働力不足
新しい人を採用するのが困難な時代です。今いる社員一人ひとりの生産性を最大化し、長く活躍してもらうためには、「やらされ仕事」ではなく「自律的な貢献」を引き出す以外に道はありません。
4.エンゲージメントを高める「3つのドライバー」
では、具体的に何がエンゲージメントを向上させるのでしょうか?その要因(ドライバー)は大きく3つに分類できます。
ドライバー①:組織・ビジョンへの共感(Company)
「この会社の理念(MVV)が好きだ」「この事業は社会に貢献している」という実感です。会社の目指す方向と、個人の価値観が重なり合った時、強力なエンゲージメントが生まれます。
- 対策:経営トップのメッセージ発信、インターナルブランディング、社内報でのストーリー共有。
ドライバー②:仕事のやりがい・成長(Work)
「自分の強みが活かせている」「この仕事をしていれば成長できる」という実感です。自分のキャリアにとってプラスになると思えるからこそ、今の仕事に没頭できます。
- 対策:リスキリング(学び直し)の機会提供、キャリア自律支援、適材適所の配置、ジョブ・クラフティング(仕事の再定義)。
ドライバー③:職場の人間関係・承認(People)
「上司や同僚と信頼関係がある」「自分の仕事が見ていてもらえる(承認)」という安心感です。心理的安全性が確保された職場では、失敗を恐れずに挑戦できます。
- 対策:1on1ミーティングの実施、サンクスカード(称賛文化)、ハラスメントの撲滅。
5.「サーベイ疲れ」を防ぐ!改善の3ステップ
エンゲージメント向上の最大の敵は、「サーベイ(調査)疲れ」です。アンケートを取るだけで何も変わらなければ、「答えても無駄だ」と思われ、逆にスコアは下がります。以下のループを回すことが重要です。
Step1:測定(Survey)
年に1回の大規模調査(センサス)や、月1回の簡易調査(パルスサーベイ)で現状を数値化します。
※スコアの良し悪しに一喜一憂せず、「どこに課題があるか」の傾向を掴むことが目的です。
Step2:フィードバック・対話(Dialogue)
ここが最も重要です。結果を現場に返し、チームで話し合います。「なぜウチのチームは『成長実感』が低いのだろう?」「どうすればもっと楽しく働ける?」犯人探しをするのではなく、「自分たちの職場を良くするための作戦会議」として対話を行います。
Step3:アクション(Action)
対話で決まった「小さなアクション」を実行します。
- 「会議の最初に雑談を入れる」
- 「週に1回、お互いの良いところを褒め合う」
- 「新しいスキルを学ぶ時間を確保する」人事が主導する大掛かりな施策よりも、現場主導の小さな変化の方が効果があります。
6.エンゲージメントに関するよくある質問(FAQ)
- Q1.スコアが低い部署の管理職がやる気を失っています。
A.サーベイの結果は「管理職の通信簿」ではありません。「チームの健康診断結果」です。会社として「スコアが低いこと」を責めるのではなく、「改善しようとしないこと(放置)」を問題視すべきです。人事と現場が一緒に対策を考えるスタンスが不可欠です。 - Q2.エンゲージメントを高めすぎると「ワーカホリック」になりませんか?
A.鋭い指摘です。「没頭」が行き過ぎると燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスクがあります。健全なエンゲージメントは、オンとオフの切り替えがあり、心身の健康が保たれていることが前提です。「休むことも仕事」という文化醸成がセットで必要です。 - Q3.エンゲージメントを高める特効薬はありますか?
A.残念ながらありません。特効薬はありませんが、「漢方薬」はあります。それが「学習機会の提供(教育投資)」です。「会社が自分に投資してくれている(成長させてくれる)」という事実は、返報性の原理により、会社への強い信頼と貢献意欲を生みます。
7.成功のカギは「ビジョン浸透」と「成長支援」
エンゲージメントを高めるには、経営理念を浸透させる「インナーブランディング(想いの共有)」と、個人の成長を支援する「教育(スキルの獲得)」の両輪が必要です。
クオークの「eラーニングラボ」では、その両面をコンテンツとシステムの力で支援します。
- ビジョン浸透:経営トップの熱い想いを伝える動画や、会社の歴史・DNAを学ぶドラマ教材の制作。
- 成長支援:社員が自律的に学べるリスキリング環境の整備や、LMS(学習管理システム)によるキャリア自律支援。
- サーベイ活用:エンゲージメントサーベイの結果に基づいた、最適な研修プラン(管理職研修など)の提案。
「サーベイの結果が悪かったが、何をすればいいか分からない」そうお悩みであれば、まずは社員に「学ぶ場(成長の機会)」を提供することから始めてみませんか?それが信頼回復の第一歩です。
8.まとめ
- エンゲージメントとは、会社への愛着と仕事への情熱が合わさった、能動的な心理状態。
- 従業員満足度(居心地の良さ)とは異なり、業績や生産性と強い相関がある。
- 向上させるには、「測って終わり」にせず、現場対話を通じて「ビジョン共感」「成長実感」を高めるアクションが必要。
▼ 次のアクション
「エンゲージメント向上のための研修施策を打ちたい」「理念浸透動画を作りたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせフォーム – Qualif(クオリフ)
9.関連用語
- [人的資本経営]
- [心理的安全性]
- [1on1ミーティング]
- [リスキリング]



