はじめに
「論理的に完璧な企画書を通し、市場調査に基づいたスペックで商品を開発した。しかし、発売してみたら全く売れなかった」
このような悲劇は、なぜ起こるのでしょうか?
それは、私たちが頼ってきた「ロジカルシンキング」や「マーケティングデータ」が、「過去の正解」しか教えてくれないからです。
顧客自身ですら、自分が本当に欲しいものを(潜在ニーズ)言葉にできません。
「もっと速い馬が欲しい」と言っていた顧客に、ヘンリー・フォードは「車」を提供しました。論理の積み上げだけでは、車というイノベーションには辿り着けなかったはずです。
今、ビジネスの現場で求められているのは、正解のない問いに対して、ユーザーへの深い「共感」を起点に、素早く試して失敗しながら答えを探り当てるアプローチです。これが「デザイン思考(Design Thinking)」です。
これはデザイナーだけのものではありません。営業、企画、エンジニア、人事……あらゆる職種において、「ユーザー(相手)にとっての本当の価値」を発見し、提供するための強力な武器となります。
本記事では、デザイン思考の5つのステップ、ロジカルシンキングとの決定的な違い、そして「失敗を恐れる組織」を変えるための研修手法について解説します。
1.デザイン思考研修をひとことで言うと?
デザイン思考研修とは、一言で言うと「デザイナーがデザインを行う際の『思考プロセス(共感・定義・創造・試作・テスト)』をビジネスに応用し、ユーザーの潜在的な課題を解決する『イノベーション創出スキル』を習得するトレーニング」のことです。
ここで言う「デザイン」とは、色や形を整える「意匠」のことではありません。「設計(Design)」、つまり「どうすればユーザーが快適に使えるか」「どうすれば課題が解決するか」という仕組みそのものを作る行為を指します。
この研修のゴールは、綺麗な絵を描けるようになることではありません。「人間中心(Human-Centered)」の視点を持ち、机上の空論ではなく、現場のリアルな観察からアイデアを生み出す「マインドセットの変革」です。
【用語の要約】
- 目的:新規事業創出、業務改善(BPR)、DX推進、顧客満足度(CX)の向上
- 対象:全社員(特に企画開発職、DX推進担当、次世代リーダー)
- キーワード:共感(Empathy)、プロトタイピング、人間中心設計(HCD)、ユーザーエクスペリエンス(UX)
2.なぜ今、「ロジック」だけでは勝てないのか
これまで紹介した「ロジカルシンキング」は強力な武器ですが、万能ではありません。現代のビジネス環境では、ロジックの限界を補完する「デザイン思考」が不可欠です。
①「正解」のコモディティ化
ロジカルに考えれば、誰でも似たような「正解」に辿り着きます。競合他社も同じデータを分析し、同じ論理で商品を開発するからです。結果、市場には似たり寄ったりの商品が溢れ、価格競争(コモディティ化)に陥ります。
頭一つ抜け出すには、論理の飛躍、つまり「理屈では説明できないが、なぜか心が惹かれる(意味的価値)」を生み出す必要があります。
②DX(デジタルトランスフォーメーション)の迷走
多くのDXプロジェクトが失敗するのは、「技術(How)」から入るからです。「AIを使おう」「アプリを作ろう」。でもそれは誰のためでしょうか?
デザイン思考は、技術からではなく「ユーザーの悩み(Who & Why)」からスタートします。
「高齢者が通院の足に困っている」→「だからライドシェアアプリを作る」。
この順序(デザイン思考→DX)でなければ、誰も使わないシステムができあがります。
③「VUCA」時代の生存戦略
変化の激しい時代に、綿密な計画(ウォーターフォール)を立てていては、リリースする頃には時代遅れになっています。
デザイン思考の真髄は、「まずは作ってみる(プロトタイプ)」ことです。粗くてもいいから形にして、ユーザーに見せ、ダメなら直す。この「高速な試行錯誤(アジャイル)」こそが、現代の唯一の成功法則です。
3.ロジカルシンキングとデザイン思考の「使い分け」
どちらが優れているかではありません。「役割」が違います。
| 特徴 | ロジカルシンキング | デザイン思考 |
| 方向性 | 深掘り(垂直思考) | 広がり(水平思考) |
| 起点 | データ・事実・前例 | 共感・観察・感情 |
| 得意領域 | 1を100にする(改善・効率化) | 0を1にする(創造・革新) |
| プロセス | 計画→実行(正解を出す) | 試作→失敗→修正(納得解を探す) |
| 問い | 「正しくはどうあるべきか?」 | 「ユーザーはどう感じているか?」 |
研修では、この2つを対立させず、「デザイン思考でアイデアを広げ(発散)、ロジカルシンキングで実現可能な形に落とし込む(収束)」という「ダブルダイヤモンド」のプロセスを教えます。
4.カリキュラムの核心:スタンフォード式「5段階のプロセス」
デザイン思考の総本山、スタンフォード大学d.schoolが提唱する「5段階のプロセス」を実践します。
Step1:共感(Empathy)
ここが全てのスタートです。アンケート調査(定量データ)ではありません。ユーザーの現場に行き、行動を「観察」し、声を「傾聴」します。
「なぜ、この人はここでため息をついたのか?」「なぜ、説明書を読まずにボタンを押したのか?」
自分自身の常識を捨て、ユーザーという他者に憑依するレベルで感情移入します。
Step2:問題定義(Define)
集めた情報から、「真の課題」を定義します。
表面的な「車が欲しい」という声の裏にある、「もっと速く移動して家族との時間を増やしたい」という潜在ニーズ(インサイト)を言語化します。「課題の設定」を間違えれば、その後の解決策は全て無駄になります。
Step3:創造(Ideate)
解決策をブレインストーミングします。
ここでは「質より量」「批判禁止」がルールです。「そんなの無理だ」というロジカルな制約を外し、「もし魔法が使えたら?」くらい飛躍したアイデアを出し合います。
Step4:プロトタイプ(Prototype)
ここが日本企業の最難関です。完璧な試作品を作る必要はありません。紙とペン、ダンボール、寸劇(ロールプレイング)で十分です。
「アイデアを形にする」ことで、チーム内の認識ズレを防ぎ、議論を具体化します。
Step5:テスト(Test)
未完成のプロトタイプをユーザーに見せます。当然、酷評されます。「使いにくい」「意味が分からない」。
しかし、デザイン思考において「失敗」は「発見」です。「なるほど、ユーザーはそこを求めていなかったのか!」と気づき、Step1やStep3に戻ります。このサイクルを高速で回します。
5.効果的な研修手法:「ワークショップ」一択
デザイン思考は「泳ぎ方」と同じで、本を読んでも身につきません。プール(ワークショップ)に飛び込む必要があります。
フィールドワーク(観察の実践)
会議室を出て、街中や自社の店舗に行きます。
「お客様がどの棚の前で立ち止まったか」「店員のどの動きにストレスを感じたか」を観察し、気づきを持ち帰ります。
「現場百回」の精神を、フレームワークとして実践します。
ラピッド・プロトタイピング(高速試作)
「30分で新しい財布のアイデアを形にしてください」
画用紙、ハサミ、テープ、レゴブロックを使って、手を動かします。
普段PCしか触っていない社員が、工作を通じて「手を動かしながら考える(Think with hands)」感覚を取り戻します。
ユーザーインタビュー・ロープレ
ペアを組み、相手の悩みを聞き出すインタビューを行います。
「はい/いいえ」で終わる質問ではなく、「なぜそう思ったのですか?」「その時どう感じましたか?」と深掘りする質問力を磨きます。
6.組織に根付かせるための「心理的安全性」
デザイン思考研修で最も重要なのは、「失敗しても怒られない環境」です。「つまらないアイデアを出すな」「そんなの実現できるのか?」上司がこの言葉を発した瞬間、デザイン思考は死にます。
研修では、管理職に対しても「心理的安全性の担保」と「『Yes, And(いいね、さらに)』の姿勢」を徹底的に指導します。「バカバカしいアイデア」の中にこそ、イノベーションの種があることを理解させます。
7.よくある失敗例と対策(FAQ)
- Q1.「私はクリエイティブな才能がない」と社員が尻込みします。
- A.誤解です。デザイン思考は、センスに頼らずイノベーションを起こすための「科学的なメソッド(手順)」です。「手順通りにやれば、誰でも一定のアウトプットが出せる」ことを強調し、ハードルを下げてください。
- A.誤解です。デザイン思考は、センスに頼らずイノベーションを起こすための「科学的なメソッド(手順)」です。「手順通りにやれば、誰でも一定のアウトプットが出せる」ことを強調し、ハードルを下げてください。
- Q2.ワークショップは盛り上がったが、現場に戻ると何も変わりません。
- A.「お祭り」で終わらせない仕組みが必要です。研修の最後に、必ず「明日からの業務で変えること」を宣言させます。また、LMSで「プチ改善コンテスト」などを開催し、デザイン思考の実践を称賛する場を設けてください。
- A.「お祭り」で終わらせない仕組みが必要です。研修の最後に、必ず「明日からの業務で変えること」を宣言させます。また、LMSで「プチ改善コンテスト」などを開催し、デザイン思考の実践を称賛する場を設けてください。
- Q3.時間がかかりすぎて、納期に間に合いません。
- A.逆です。デザイン思考は「手戻りを防ぐ」ための手法です。完成してから「誰も欲しくない」と分かるリスクを考えれば、初期段階でプロトタイプを作って検証する方が、トータルでは圧倒的に低コストで高速です(FailFast:早く失敗せよ)。
8.成功のカギは「LMS」でのナレッジシェア
デザイン思考のアウトプット(観察記録やプロトタイプの写真)は、貴重なナレッジです。
クオークでは、以下のようなご支援が可能です。
- アイデア共有機能:ワークショップで作ったプロトタイプの写真をLMSにアップし、全社員が「いいね」やコメントでフィードバックする機能。
- メソッド動画:「共感マップの書き方」「ブレストのルール」など、いつでも復習できるマイクロラーニング教材。
- デザイン思考コンテスト:部署対抗のアイデアソンをLMS上で開催し、イノベーション文化を醸成。
「新しい事業が生まれない」「DXが進まない」とお悩みのご担当者様は、ぜひご相談ください。
9.まとめ
- デザイン思考研修は、デザイナーのためではなく、全社員が「イノベーション(0→1)」を起こすための必須OS。
- ロジカルシンキングの限界(過去の延長)を突破し、ユーザーへの「共感」から潜在ニーズを発見する。
- 「失敗=発見」と捉えるマインドセットと、LMSを活用したアイデア共有の仕組みが、組織を変える。
▼次のアクション
「社員の発想力を鍛えたい」「デザイン思考のワークショップを開催したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
10.関連用語
- [ロジカルシンキング]
- [クリティカルシンキング]
- [DX研修]
- [心理的安全性]
- [UI/UX]



