はじめに
「誰が研修を受けて、誰が受けていないのか、Excelの管理表を見ても分からない」
「せっかく動画教材を作ったのに、メールで送るだけでは社員が見てくれているか謎だ」
「人的資本情報の開示に向けて、全社の研修時間を集計しなければならないが、データが散らばっていて絶望的だ」
人材育成の担当者にとって、研修の企画以上に頭を悩ませるのが、こうした「管理・運用業務(アドミニストレーション)」の煩雑さです。
この課題を一挙に解決し、現代の人材開発の「インフラ」となっているのが、「LMS(学習管理システム)」です。
本記事では、LMSの基本機能から、近年注目される「LXP」との違い、そして自社に最適なシステムを選ぶための判断基準について、詳しく解説します。
1. LMSをひとことで言うと?
LMS(Learning Management System)とは、日本語で「学習管理システム」と呼ばれ、eラーニングの配信から受講状況の管理、学習履歴の蓄積までを一元的に行うプラットフォームのことです。
学校に例えるなら、「校舎(学ぶ場所)」と「出席簿・成績表(管理する場所)」がセットになって、デジタル空間に存在しているイメージです。
かつては「eラーニングシステム」と呼ばれていましたが、現在は集合研修の出欠管理や、タレントマネジメントシステムとの連携など、学習全般を管理する基盤へと進化しています。
【用語の要約】
- 目的:修運用の効率化、学習データの可視化・蓄積・分析
- 対象:事・教育担当者(管理者)、全従業員(受講者)
- 英語:earning Management System
- 主な機能:教材管理・配信、ユーザ管理、テスト実施、進捗管理、掲示板、レポート作成
2. なぜ今、Excel管理では限界なのか
これまで多くの企業が、研修管理をExcelやスプレッドシートで行ってきました。しかし、現代のビジネス環境において、手作業での管理は限界を迎えています。
① 「人的資本経営」によるデータ開示の義務化
上場企業を中心に、人材育成への投資額や研修時間などの情報開示が求められています。Excelでのバケツリレー(各部署からの報告集計)では、正確なデータをタイムリーに出すことが不可能です。
② コンプライアンス・リスクの増大
「ハラスメント研修」や「情報セキュリティ研修」など、全社員必須の研修が増えています。万が一トラブルが起きた際、「会社は指導していた」という証拠(エビデンス)を出すためには、LMSによる厳密な受講履歴のログが必要です。
③ 学習スタイルの多様化(マイクロラーニングなど)
かつてのように「年に数回の集合研修」だけならExcelで管理できました。しかし、「毎月更新されるマイクロラーニング」や「個別のリスキリング講座」など、学習の頻度と量が増えた今、人力で管理するのは物理的に不可能です。
3. LMSの「3大機能」とは
LMSには多種多様な機能がありますが、大きく分けて3つの役割があります。
- 管理機能(人事・管理者向け)
- ユーザ管理・受講登録:ユーザを登録し、誰にどのコースを割り当てるかを設定します(例:「新入社員」だけに「名刺交換講座」を配信)。
- 進捗管理・督促機能:「未受講者」をワンクリックで抽出し、催促メールを一斉送信します。
- 受講履歴管理機能:テストの平均点や、受講率の推移をグラフ化します。
- 学習機能(受講者向け)
- マイページ:自分に割り当てられた研修一覧(To Do)が表示されます。
- マルチデバイス対応:PCだけでなく、スマホやタブレットで移動中に学習できます。
- 学習機能:動画をはじめとした学習教材を受講し、受講履歴が記録されます。
- テスト・アンケート:動画視聴後に理解度テストを受けたり、感想を投稿したりします。
- コミュニケーション機能
- 掲示板・SNS・QA:講師への質問や、受講者同士の意見交換ができます。
- お知らせ機能:研修の更新情報や事務連絡を受講者に対して届けます。
4. LMSの進化系「LXP」とは?
LMSを選定する際、最近よく耳にすることが増えてきているのが「LXP(Learning Experience Platform:学習体験プラットフォーム)」という言葉です。 LMSとLXPは、設計思想が真逆です。
| 項目 | LMS(従来型) | LXP(最新型) |
| 主語 | 管理者(会社) | 学習者(個人) |
| スタンス | トップダウン(管理・必修) | ボトムアップ(自律・推奨) |
| イメージ | 「学校の必修授業」 | 「NetflixやYouTube」 |
| 特徴 | 会社が決めた研修を、漏れなく受けさせることに特化。 | AIが個人の興味やスキルに合わせて「おすすめ教材」をレコメンドする。 |
「管理(LMS)」か「体験(LXP)」か?
どちらが良い・悪いではありません。コンプライアンス研修などはLMS的機能が必要ですし、リスキリングを促すならLXP的機能が有効です。最新のシステムは、この両方の要素を併せ持ったハイブリッド型が増えています。
5. 失敗しないLMS選定、5つの基準
市場には数百種類のLMSが存在します。機能比較表を見ても、表面的な機能だけで比較すると全部〇がついているため、どれかを選ぶことが困難です。そのような場合には、以下の5点を基準に選ぶと失敗しません。
① 「スマホでの使いやすさ(UI/UX)」
管理画面の多機能さよりも、受講者画面の「分かりやすさ・使いやすさ」を最優先にしてください。企業でLMSを導入する場合には、システムを選定するのは人事部や情報システム部の「管理者機能を使う」人たちになるため、管理機能に目が行きがちです。しかし、LMSを利用する主役はあくまでも受講者であることを忘れないようにしましょう。「ログインが遅い」「どこを押せば受講が始まるのか分からない」ようなシステムは、絶対に社員に使ってもらえません。
② クラウド(SaaS)か、オンプレミスか
現在はクラウド型(SaaS)が圧倒的な主流です。
初期費用が安く、常に最新機能にアップデートされ、サーバ保守の手間もありません。特別なセキュリティ要件がない限り、クラウド型を選ぶのがよいでしょう。
③ サポート体制(国産か海外製か)
海外製のLMSは一見高機能ですが、メニューが英語直訳で分かりづらかったり、サポートが弱かったりすることがあります。また、日本独自の商習慣(複雑な組織階層や人事異動対応)に対応できないこともよくあります。困った時に電話やチャットですぐ相談できる国産ベンダーの方が、運用担当者の負担は軽くなります。
また、最近は様々な国のサービスが日本に進出してきてます。LMSに載せる社員の情報や教材の情報は企業にとって非常にセンシティブな機密情報であることを念頭に、情報を抜き取られる可能性がある国やベンダーのサービスは避けるようにしましょう。
④ 「教材作成ツール」との連携
LMSはあくまで「箱」です。中に入れる「コンテンツ」がなければただの空箱です。
PowerPointや動画ファイルを簡単にアップロードできるか、あるいは簡単なテスト作成機能がついているかを確認しましょう。
⑤隠れた追加費用の存在
ベンダーによっては、基本料金は安く設定しておいて、追加費用で儲けようとしているところもあります。パンフレットに載っている値段で比較するのではなく、自社の社員数やコンテンツ数、学習時間数などの想定を適用した場合の「本当に掛かる費用」をきちんと算出し、比較するようにしましょう。
6. LMSに関するよくある質問(FAQ)
- Q1. 導入コストの相場は?
A. クラウド型の場合、初期費用0〜50万円程度、月額費用は1ユーザーあたり数百円~800円程度という従量課金制が一般的です。人数が多いほど単価は下がります。 - Q2. 既存の人事システムと連携できますか?
A. 多くのLMSは、社員情報のCSV取り込みに対応しています。API連携による自動更新が可能かどうかは製品によりますので、事前に確認が必要です。 - Q3. セキュリティは大丈夫ですか?
A. 多くのクラウド型LMSは、通信の暗号化(SSL)やISO27001(ISMS)の取得など、厳格なセキュリティ対策を行っています。社内の情報システム部門のチェックリストを事前にベンダーに渡し、回答をもらうのがスムーズです。
7. 成功のカギは「箱(LMS)」と「中身(教材)」の両輪が整うこと
LMS導入で最も多い失敗パターンは、「立派なシステムを入れたけれど、中身がスカスカで誰もアクセスしない」という事態です。システム(箱)は、あくまで手段です。重要なのは、そこに「社員が見たくなる魅力的なコンテンツ(中身)」があるかどうかです。
もっとも、教材の数だけ揃えれば良いというものでもありません。受け放題で数百のコンテンツがセットになっているサービスもありますが、いくら数が多くても受講者のニーズに合っていなければ受講されないのは言うまでもありません。
人事担当者のアリバイ作りのために、「シャアがNO.1らしいLMS」や、「セットになっているコンテンツが多いサービス」を選んで良しとせず、自社の社員の育成に最も適したシステム・サービスをきちんと選定する労力を惜しまないようにしましょう。
クオークでは、
- 最適なLMSの選定・導入支援:
貴社の規模と課題に合ったシステムを提案します。 - 効果的なコンテンツ制作:
インストラクショナルデザインに基づいた「伝わる教材」を制作します。 - 運用代行・事務局支援:
煩雑な登録作業や問い合わせ対応をサポートします。
「箱」と「中身」、両面からのサポートで、導入初月から成果が出る教育環境の構築を支援します。
8. まとめ
- LMSとは、研修の「配信・管理・蓄積」を一元化する人材育成のインフラである。
- 人的資本情報の可視化や、マイクロラーニングの普及により、Excel管理は限界を迎えている。
- 選定の際は、管理者目線だけでなく「スマホでの使いやすさ(学習者体験)」を重視すべき。
▼ 次のアクション
「Excel管理から脱却したい」「自社に合ったLMSを知りたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせフォーム – Qualif(クオリフ)
9. 関連用語
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