心理的安全性(PsychologicalSafety)

目次

はじめに

「会議で意見を求めても、誰も発言せず沈黙が続く」「悪い報告がギリギリまで上がってこず、トラブル対応が後手に回る」「若手が『失敗したら怒られる』と萎縮し、新しい挑戦をしなくなった」

これらの組織課題の根本にあるのが、「心理的安全性(Psychological Safety)」の欠如です。Googleが「生産性の高いチームの共通点」として発表して以来、ビジネス界のバズワードとなりましたが、現場では「単に仲が良いだけの職場(ぬるま湯)」と誤解されているケースも少なくありません。

本記事では、心理的安全性の正しい定義や、「ぬるま湯組織」との決定的な違い、チームの心理的安全性を高めるための「4つの因子」、そしてリーダーが明日から実践できる具体的な行動変容について、詳しく解説します。

1.心理的安全性をひとことで言うと?

心理的安全性とは、一言で言うと「チームの中で、誰が何を言っても、馬鹿にされたり拒絶されたりしないという安心感」のことです。

ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱されました。「無知だと思われないか」「邪魔だと思われないか」「ネガティブだと思われないか」といった不安(対人リスク)を感じることなく、自分の意見や質問、懸念、そして失敗を率直に発言できる状態を指します。

【用語の要約】

  • 目的:イノベーションの創出、リスク情報の早期発見、学習する組織の構築
  • 対象:チーム全体(特にリーダーの振る舞いが重要)
  • 英語:Psychological Safety
  • よくある誤解:「みんなが仲良しで、居心地が良いだけの職場」ではありません。「厳しい意見も対立を恐れずに言える健全な職場」のことです。

2.なぜ今、心理的安全性が最強の指標なのか

この概念が一躍有名になったのは、Googleが行った社内調査「プロジェクト・アリストテレス(2015年)」がきっかけです。

「成功するチームの要因は何か?」を膨大なデータで分析した結果、「メンバーの学歴」や「個人の能力」「カリスマ性」よりも、「心理的安全性が高いこと」が圧倒的に重要であると結論づけられました。

現代の企業において重要な理由は以下の3点です。

①イノベーションの必須条件(知の探索)

正解のないVUCA時代において、新しいアイデアは「素朴な疑問」や「突拍子もない提案」から生まれます。「こんなことを言ったら笑われるかも」というブレーキがかかる環境では、イノベーションの芽は摘まれてしまいます。

②不祥事の防止(リスク管理)

「これを言ったら怒られるかも」という恐怖は、ミスや不正の隠蔽(インペイ)に直結します。「ヤバい」と思った瞬間に報告できる環境(心理的安全性)は、コンプライアンス経営の土台でもあります。隠蔽体質の組織は、心理的安全性が極端に低いのが特徴です。

③ダイバーシティ&インクルージョン

多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍するためには、「少数派の意見」が尊重される土壌が必要です。心理的安全性がない状態で多様な人材を集めても、同調圧力に潰されてしまい、定着しません。

3.「ぬるま湯」と「心理的安全性」の決定的な違い

心理的安全性を高めようとして失敗するのが、「単なる仲良しクラブ(ぬるま湯)」になってしまうパターンです。エドモンドソン教授は、「心理的安全性」と「仕事の基準(責任・モチベーション)」の2軸で整理しています。

  1. 学習する職場(Learning Zone):
    • 心理的安全性:高 × 仕事の基準:高
    • ここが目指すべきゴールです。お互いを尊重しているからこそ、厳しい意見も飛び交います。失敗を恐れず挑戦し、高速で学習サイクルが回ります。
  2. ぬるま湯の職場(Comfort Zone):
    • 心理的安全性:高 × 仕事の基準:低
    • 「ま、いいか」で済ませてしまい、成長がありません。居心地は良いですが、業績は上がりません。
  3. 不安な職場(Anxiety Zone):
    • 心理的安全性:低 × 仕事の基準:高
    • 従来の体育会系組織に多いパターンです。常にプレッシャーがあり、メンタル不調やミスの隠蔽が起きやすくなります。
  4. 寒い職場(Apathy Zone):
    • 心理的安全性:低 × 仕事の基準:低
    • 無関心で、誰も何もしない、離職率が高い組織です。

目指すべきは、「安心」して「挑戦」できる「学習する職場」です。

4.日本企業で心理的安全性を測る「4つの因子」

具体的にどのような状態であれば「心理的安全性が高い」と言えるのでしょうか。日本の組織風土に合わせて体系化された、石井遼介氏(株式会社ZENTech)による「4つの因子」が分かりやすい指標となります。

①話しやすさ

「何を言っても大丈夫」と思える状態です。雑談だけでなく、トラブル報告や反対意見も言い合えるかどうかがポイントです。

②助け合い

「困ったときはお互い様」とサポートし合える状態です。自分の仕事だけでなく、チーム全体の成果に目を向け、トラブル時に犯人探しではなく解決策を探せるかどうかが問われます。

③挑戦

「とりあえずやってみよう」と失敗を歓迎する状態です。前例踏襲にとらわれず、新しいやり方を試すことに対してポジティブな反応が得られる環境です。

④新奇歓迎

「変わった人・意見」を排除せず、面白がる状態です。出る杭を打つのではなく、「その視点はなかった!」と個性を才能として認め合える状態です。

5.リーダーが明日からできる3つの行動

心理的安全性の醸成は、経営スローガンだけでは実現しません。現場のリーダー(管理職)の言動で9割決まります。

①「無知」をさらけ出す(自己開示)

リーダーが完璧である必要はありません。「私もこの件については分からないから、教えてほしい」「さっきの判断は間違っていた、すまない」とリーダーが率先して弱みを見せることで、部下は「ここでは失敗しても許されるんだ」と安心します。これを「弱さの鎧を脱ぐ」と言います。

②仕事を「学習の問題」として再定義する

「ミスをしないこと」をゴールにすると、人は萎縮します。「新しいことへの挑戦には失敗がつきものだ。そこから何を学ぶかが重要だ」と、仕事を「実行の問題」ではなく「学習の問題」として再定義(リフレーミング)してください。

③「積極的な問いかけ」を行う

「何か意見ある?」と漠然と聞くのではなく、「〇〇さんはこのリスクについてどう思う?」と指名して意見を求めます。発言してくれたら、内容の良し悪しに関わらず、まず「発言してくれたこと自体」に感謝を伝えてください。

6.心理的安全性に関するよくある質問(FAQ)

  • Q1.批判ばかりする社員がいて困ります。
    A.心理的安全性は「何を言ってもいい(他者を攻撃してもいい)」という意味ではありません。「他者の意見を尊重する」「人格否定はしない」というグランドルールを設けることが前提です。「意見への批判」と「人格への攻撃」を明確に区別し、攻撃的な言動にはリーダーが毅然とNOを示す必要があります。
  • Q2.成果が出なくても「いいね」と言うべきですか?
    A.いいえ、それは「ぬるま湯」です。成果が出ていない事実には向き合う必要があります。ただし、「お前はダメだ」と人格を否定するのではなく、「なぜ成果が出なかったのか、プロセスを一緒に検証しよう」と、コトに向き合う姿勢が心理的安全性を保ちます。
  • Q3.測定方法はありますか?
    A.エドモンドソン教授の「心理的安全性を診断する7つの質問」を用いたアンケート調査で数値化できます。「このチームでミスをすると批判される」「このチームでは課題を指摘しても受け入れられない」などの項目に対し、5段階で回答させます。定期的に測定し、スコアが低いチームには1on1などの介入を行います。

7.成功のカギは「管理職への教育(eラーニング)」

心理的安全性を作り出せるかどうかは、管理職のコミュニケーションスキルにかかっています。しかし、多くの管理職は「アメとムチ」のマネジメントしか習っておらず、「心理的安全性の作り方」を知りません。

そこで有効なのが、eラーニングによる「行動変容」のトレーニングです。

  • アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を知る
  • 傾聴と承認(アクティブ・リスニング)のスキルを学ぶ
  • NGなフィードバック例を動画で見る(「何で?」ではなく「どうしてそう思った?」と聞くなど)

クオークでは、管理職の意識を変えるための「心理的安全性研修コンテンツ」の制作や、組織の状態を可視化するサーベイ運用などを支援しています。「言葉」だけのスローガンではなく、「行動」が変わる研修を提供します。

8.まとめ

  • 心理的安全性とは、「対人リスク」を恐れずに発言できる安心感のこと。
  • 「ぬるま湯」ではなく、高い基準で意見を戦わせる「学習する職場」を目指すもの。
  • 醸成のカギは管理職の「弱さの開示」と「リフレーミング」にあるため、リーダー層への教育投資が最も効果的。

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