タレントマネジメントとは?~人材をコストから資産へ変える人事戦略~

日本企業は長年にわたり、「終身雇用」「年功序列」という雇用慣行のもと、「企業内教育」を軸に人材を育成してきました。ところが近年、労働人口の減少と少子高齢化は待ったなしで進んでおり、その伝統的な慣例の維持が困難になってきています。

また、グローバル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に対応が急務な経営環境下では、高度なスキルを持つ人材の確保も大きな課題です。さらに、若手、中堅社員においては、価値観の変化やキャリアの自律意識の根づきに伴い、転職志向が高まっています。

人事部門のリーダーの皆様は、経営戦略に基づく人材の確保や社員の育成、最適な配置に、日々頭を悩ませているのではないでしょうか?

昨今、従来型の人材マネジメントでは競争優位を保つことが困難になりつつある中で、注目されているのがタレントマネジメントです。

本記事では、タレントマネジメントの骨子や成功・失敗事例を元に、人事戦略立案と遂行にお役に立てる内容を解説していきます。

目次

タレントマネジメントとは?

タレントマネジメントとは一般に、従業員一人ひとりの能力・スキル・経験・志向性を可視化し、それを企業戦略と結びつけて「適材適所の配置」「計画的な人材育成」「人材の定着強化(リテンション)」を実現する人事マネジメント手法です。

終身雇用・年功序列を前提とした従来型の人事運用では、少子高齢化・人材流動化・DXへの適応に限界が見えています。人的資本を「コスト」ではなく「資産(資本)」として捉え、価値創出に直結させる発想転換が求められています。

過去、日本では戦後から1970年代の高度経済成長期において「終身雇用制」や「年功序列」が確立され、一度入社すると定年まで同じ会社で働くことが当たり前でした。「就職」というより「就社」であり、当時は「大量生産、大量消費」にマッチするスキルを持つ人材を、自社内でどう育成するかが重要視されていました。

それが1990年代初頭のバブル崩壊後、個人の価値観の多様化を背景に労働市場の流動化が進み、従来の人事制度で企業の競争力を向上させるにはそぐわない面がでてきました。例えばこれまでは、会社側の理屈優先・業務ありきで人材管理を行っていましたが、昨今では、個々人のワークライフバランスやダイバーシティなどにフォーカスした対応が求められています。

企業は、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、企業価値の向上につなげる「人的資本経営」で考える必要があります。デジタル化や人材流動化が進む中で「社員のスキルや経験、意欲といった要素こそが企業の競争力の源泉である」という認識が先進的な企業に広がりつつあります。

タレントマネジメントが注目される背景をまとめると、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 労働力人口の減少:採用競争の激化。内製育成の重要度が上昇。
  • 事業の高速化・高度化:デジタル/グローバル対応に伴うスキルの陳腐化リスク。
  • キャリア自律の進展:個人の志向に合わない配置や評価は離職につながる。
  • 人的資本経営:開示や説明責任の高まりにより、人材データの可視化・活用が経営課題に。

起源と歴史:「War for Talent」の潮流

タレントマネジメントの起源は米国にあります。2002年にマッキンゼーが『 War for Talent』という書籍を発売し、「企業競争力の源泉は優秀な人材である」と指摘したことで、世界的に注目を集めました。

この指摘は、昨今ますます重要になっています。たとえば、『 War for Talent』で提唱された10個の構成要素の1つに、「独自のEVP(Employee Value Proposition:従業員価値提供)」があります。これは「自社でしか得られない魅力を打ち出し、優秀な人材を引きつける」というものです。もし、自社で働くことでしか得られない「独自のEVP」を社員に示す事ができなければ、育成に投資した優秀な社員が、他社に転職してしまうリスクが増大します。

日本と海外の違い

日本と海外では前提となる雇用慣習が大きく異なります。欧米、特にアメリカは職務内容を明確に定義し、成果で評価する「ジョブ型」が主流ですが、日本は新卒一括採用や年功序列を前提とする「メンバーシップ型」で、幅広いローテーションを重視しています。

そのため、日本では高度な専門性を持つ人材が育ちにくいことが課題となっており、海外の手法をそのまま導入しても十分に機能しないケースが多いのが現状です。日本企業は「全方位育成」の強みを活かしながら、職務定義やスキル定義をより精緻化し、社内での流動性(社内異動)を制度として整備することで、より効果的な成果が期待できるでしょう。

項目日本(メンバーシップ型)米国(ジョブ型)
採用新卒一括採用 配属は会社主導ポジション前提の 中途採用
評価年功序列 総合評価職務成果ベース  市場連動
異動広く経験を積ませる
ローテーション
職務(ジョブ)を 厳密に定義 専門職特化の固定
流動性低い高い

タレントマネジメント導入の効果

タレントマネジメントを導入する最大の効果は、人材の「見える化」と「戦略的な活用」にあります。従業員一人ひとりのスキルや経験、進みたいキャリア等を把握できることで、適材適所の配置が可能になります。その結果、離職率の低下やエンゲージメントの向上につながり、組織全体の生産性を底上げができます。

さらに、後継者育成やリーダー人材の計画的な確保も容易になり、経営の持続性を高められる点も見逃せません。加えて、スキルギャップを可視化して研修や学習機会と結びつけることで、人材育成投資のROIを明確にできる点も大きなメリットです。具体的な効果のポイントを以下に3点あげます。

①リスキリング支援:
新しいスキル習得を促進し、変化の激しい市場に柔軟に  対応する。

②エンゲージメント向上:
エンゲージメントサーベイを活用し、社員の声を データで把握することにより改善策につなげる。

③学習機会の平等化:
特に近年はeラーニングの普及により、いつでもどこでも社員が公平に学べる環境が整備され、効率的なスキルアップを後押しする。

タレントマネジメントは「人材を資産」として育成し、企業の持続的成長を支える仕組みです。eラーニングやリスキリング、エンゲージメントサーベイを組み合わせることで、より効果的に導入・運用できるでしょう。

タレントマネジメントの導入ステップとロードマップ

タレントマネジメントを自社に根付かせ、持続的な成果につなげるには、段階的な導入を行うことが重要です。ここでは、導入の流れをわかりやすく整理しました。

①目的の明確化

まずは経営課題に直結する目標を設定します。たとえば、

  • 離職率改善(例:年間5%削減)
  • 女性管理職比率の向上(例:全社員の30%達成)

数値で示すことで、効果測定もしやすくなります。

②人材データの収集・整備

社員のスキル、資格、評価履歴などを一元化し、「人材の見える化」を実現します。これにより、適材適所の配置や戦略的な育成が可能になります。

③学習基盤の構築

たとえば、eラーニングやリスキリングプログラムを導入し、全社員に平等な学習機会を提供します。学習進捗を管理することで、スキルギャップの把握や育成計画の改善が容易になります。

④エンゲージメントサーベイの実施

社員の満足度やモチベーションを定期的に測定します。サーベイ結果をもとに改善施策を打ち出すことで、社員のエンゲージメントの向上が期待できます。

⑤小規模パイロット導入

最初から全社展開せず、特定部門で試験的に導入します。小規模で効果を検証し、成功事例をつくることで、他部門や全社への展開がスムーズになります。

⑥全社展開と継続的改善

パイロットで得た成果を基に全社展開します。さらに、KPI(離職率、育成進捗、エンゲージメント向上など)を定期的に見直し、施策を改善していくことが重要です。

タレントマネジメントは、一度導入すれば終わりではなく、継続的に改善を重ねることで中長期的に成果を発揮することを目指します。

「①目的の明確化 → ②人材データの収集・整備 → ③学習基盤の構築 →④エンゲージメントサーベイの実施 → ⑤小規模パイロット導入 → ⑥全社展開と継続的改善」のロードマップを踏むことで、組織に無理なく浸透し、持続的な成長を支える仕組みとして機能させることが重要です。

成功事例から学ぶタレントマネジメント

①【成功事例】味の素株式会社のタレントマネジメント

味の素株式会社は、グローバルに展開する事業を支えるため、独自の「グローバル人財マネジメントシステム」を導入しました。この仕組みにより、世界中の従業員の人材情報を一元管理し、国や地域を超えた人材活用を実現しています。特に注目すべきは、「ポジションマネジメント」と「タレントマネジメント」を組み合わせた点です。重要な役職に誰を配置するかを明確にし、そのポジションに適した人材を計画的に育成することで、組織の持続的な成長を支えています。

さらに、地域横断型の研修や、社員が自ら選んで参加できる教育プログラムを導入することで、従業員一人ひとりの意欲と満足度が向上しました。味の素の事例は、単なる制度導入にとどまらず、「戦略的人材育成」と「従業員エンゲージメント向上」を両立させた成功例として、多くの企業が参考にできる取り組みです。

参照元:こちら

②【成功事例】株式会社LIXIL のダイバーシティ戦略

株式会社LIXILは「多様性の尊重」「公平な機会の提供」「実力主義の徹底」を掲げ、ダイバーシティ推進を掲げた戦略的なタレントマネジメントを展開しました。2012年には女性管理職比率がわずか0.9%でしたが、経営層が主導して「LIXIL Diversity宣言」を社内外に公表し、「管理職登用者の30%を女性に」「リーダー育成プログラムの20%以上に女性参加」などの数値目標を設定しました。

参照元はこちら

タレントマネジメントを推進した結果、2024年時点では女性取締役比率31.3%、女性管理職比率はグローバルで17.1%に達しています。

参照元はこちら

LIXILの事例は、トップの意思と明確な数値目標、組織横断の仕組みによって、文化変革とタレント育成が共に実現されたタレントマネジメントへの取組みの好例と言えるでしょう。

タレントマネジメントの失敗事例と教訓

タレントマネジメントは多くの企業で導入が進んでいますが、成功する企業と失敗に終わる企業の差は明確です。よくある失敗パターンとして、まず「目的が不明確」という点が挙げられます。流行だから導入した、という理由では成果につながりません。また、初期導入のみで満足し、運用が停滞してしまうケースも少なくありません。さらに、人事評価制度など既存の仕組みと統合できず、現場が混乱することもあります。そして、特定の人材だけが優遇されるように見え、社員の納得感を失うことも失敗の大きな要因です。

一方で成功している企業には、共通点があります。経営層が強く関与し、全社戦略と連動させていること。目的と数値目標を明確に掲げていること。そして既存の制度と統合し、継続的にデータを更新・活用していることです。

言い換えれば、「導入すること」自体が目的ではなく、「会社全体で運用を根付かせる仕組みを作れるかどうか」が、成功と失敗を分けるポイントだと言えるでしょう。

タレントマネジメント導入の成功と失敗の分かれ道

成功要因失敗要因
経営層の強力な関与部門任せで全社戦略にならない
明確な目的と数値目標設定目的が曖昧
既存制度との統合既存制度と未連携の運用
継続的なデータ更新・活用初期導入のみで停滞

タレントマネジメントを経営層へ提案する際のポイント

タレントマネジメントを導入する際、人事部門が経営層に提案するには「納得できる根拠」と「数値で示せる効果」が欠かせません。ここでは、経営層に対して、提案の説得力を高めるためのポイントを解説します。

① 数値目標を明示する

数値目標は、タレントマネジメントを「成果が見える取り組み」に変える力を持っています。例えば「女性管理職比率を30%以上にする」といった前述のLIXILの成功事例のように明確な目標を掲げることで、社員も経営層もゴールを共有できます。

数字で示すことは、「この取り組みが企業をどう変えるか」を誰もが実感できる材料となり、組織全体の前向きなモチベーションを引き出します。曖昧な表現よりも数字で示すことが、経営層を動かすカギです。

②ROI(投資対効果)を提示する

経営層にとって、投資額に対してどれだけのリターンが期待できるかは最重要ポイントです。タレントマネジメントを進めることで、優秀な人材の定着率が高まり、採用コストを大幅に抑えることができます。

例えば、離職率が下がれば、新たに採用・育成するための費用や時間を削減できます。そこで生まれた余剰資金を、そのまま社員の教育・研修やキャリア開発といった「タレントマネジメントの充実投資」に回すことで、さらなる好循環を生み出すことが可能です。

採用コストを節約して終わるのではなく、それを未来の人材育成に再投資することで、組織全体の生産性やイノベーション力が高まり、結果的に企業価値の向上へとつながります。

③段階的に導入する

タレントマネジメントは、一気に全社で導入しなくても構いません。まずは一部門や小規模なチームで試行し、その成果を検証してから全社展開する方が効果的です。小さな成功体験を積み重ねていくことで、現場の納得感も高まり、組織全体への浸透がスムーズになります。これは「リスクを抑えつつ成功体験を拡大していく、成長志向のステップアップ」と言えるでしょう。

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LMSとは、eラーニングの実施・運用に必要な機能を備えた管理システムのことで、「学習管理システム」(Learning Management System)とも呼ばれています。eラーニングコンテンツの作成、配信、受講者の管理、組織の管理、受講の進捗状況の管理までを一元的に行えることが特徴で、学校や企業といった多くの法人で利用されており、eラーニングの実施を支える重要な役割を担っています。

参考記事:
LMSとは ~学習管理システムの基本から応用まで、機能と活用、これからを知る~ | Qualif eラーニングラボ

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