はじめに
「社内には100個以上のSaaSがあり、ID管理だけで手一杯だ」
「毎年値上げされるサブスクリプション費用が、経営を圧迫している」
「ツールは入れたが、結局使いこなせず、ただの『課金箱』になっている」
2010年代、SaaS(Software as a Service)はビジネスの救世主でした。初期費用なしで、最新のソフトウェアを使えるこのモデルは、DXの象徴として爆発的に普及しました。しかし今、シリコンバレーを中心に「SaaS is Dead(SaaSは死んだ)」という衝撃的な言葉が囁かれ始めています。
もちろん、クラウドサービスが消滅するわけではありません。しかし、「とりあえずSaaSを入れておけばOK」というゴールドラッシュの時代は終わろうとしています。
本記事では、なぜ今「SaaSの限界」が叫ばれているのか、その背景にある「SaaS疲れ」の実態、そして「LMSというSaaSはどう変化していくのか?」という具体的な未来予測を含めて解説します。
1.「SaaS is Dead」とはどういう意味か?
この言葉は、SaaSというビジネスモデルや技術そのものの死を意味するものではありません。正確には、「Seat-based(1ユーザあたり月額〇円)の画一的なツールを、大量に導入する時代の終焉」を指しています。
これまでのSaaSは、「便利な道具(Tool)」を提供してきました。「メールを送る道具」「顧客を管理する道具」「動画を配信する道具」。ユーザは月額料金を払い、その道具を使って「自分で」作業をしていました。
しかし、生成AIの登場により、人々は「道具」ではなく「結果(Outcome)」を求めるようになっています。「メールを送るツール」ではなく、「勝手にアポを取ってくれるAI」にお金を払いたい。つまり、「SaaS(道具の提供)」から「Service as a Software(業務の代行)」へのパラダイムシフトが起きているのです。
【用語の要約】
- 背景:サブスクリプション疲れ、ツールの乱立、AIの台頭
- 意味:「道具貸し」モデルから「成果提供」モデルへの転換
- キーワード:Service as a Software、AI Agent、Vertical SaaS、LMS3.0
2.なぜSaaSは「限界」を迎えたのか
企業が直面している「SaaS疲れ」には、主に3つの原因があります。
①アプリケーションの乱立
ある調査によると、大企業では平均して1社あたり100〜200個ものSaaSを利用していると言われます。社員は、チャット、メール、タスク管理、LMS、経費精算……と、1日に何度もアプリを行き来しています。
「あの情報はどこにあったっけ?」と探す時間が増え、生産性が逆に下がっている現象が起きています。
②埋没コストの増大
「退職した社員のIDにお金を払い続けていた」
「全社員分契約したけど、実際に使っているのは2割だけ」
SaaSベンダーは解約防止のために、年間契約を推奨します。その結果、企業は「使っていない空気(ID)」に年間数千万円を支払うことになり、CFO(財務責任者)がSaaSの削減に乗り出し始めています。
③「入力作業」への嫌悪感
SaaSの多くは「データベース」です。LMSも同様で、人間がせっせと受講者を登録し、教材をアップしなければ機能しません。「SaaSを入れれば楽になるはずが、入力作業で残業が増えた」という本末転倒な事態に対し、ユーザは疲弊しています。
3.LMS市場の未来:生き残るもの、消えるもの
では、この激変の中で「LMS」というSaaSはどうなっていくのでしょうか。
結論から言えば、「ただの動画配信ツール」としてのLMSは消滅(コモディティ化)し、「育成エージェント」へと進化できるLMSだけが生き残るでしょう。
①「動画置き場」型LMSの終焉
これまで多くのLMSは、「動画を置いて、誰が見たか管理する」だけの機能でお金を取っていました。しかし、この機能はもはやGoogleドライブやSharePoint、あるいはSlackなどのコミュニケーションツールでも代替可能です。単なる「保管庫」にお金を払う企業はいなくなります。
②AIメンター化(LMS3.0)
生き残るLMSは、「Service as a Software(AIによる代行)」へと進化するでしょう。
- 管理者向け:人事がカリキュラムを作らなくても、AIが「この部署のスキル要件なら、このコースがお勧めです」と自動生成してくれる。
- 学習者向け:「動画を見る」だけでなく、AIと対話しながらロールプレイングを行い、フィードバックを受ける。LMSは「管理ツール」から「専属のAIコーチ」へと役割を変えます。
③統合型プラットフォームへの回帰
「LMSはA社、タレントマネジメントはB社、エンゲージメントサーベイはC社」こうした「ベスト・オブ・ブリード(各分野のNo.1を組み合わせる)」戦略は見直されつつあります。データが分断され、管理コストが高すぎるからです。
これからは、「教育も評価も配置も、1つのIDで完結する」オールインワン型のプラットフォームに需要が回帰していく可能性があります。LMSベンダーは、周辺領域(TMSなど)を飲み込んで巨大化するか、淘汰されるかの二極化が進むかもしれません。
4.人事・教育担当者が取るべき「脱SaaS疲れ」戦略
この過渡期において、システム選定担当者はどう動くべきでしょうか。
戦略①:All-in-One(統合型)への集約
バラバラのSaaSを10個契約するのではなく、LMSもタレントマネジメントも人事評価もセットになった「統合プラットフォーム」を選ぶ動きが再燃しつつあります。
SSOやAPI連携の手間も減らせるため、情シス部門からも歓迎されます。「連携できるか?」ではなく「最初から繋がっているか?」が選定基準になります。
戦略②:UI(見た目)ではなく「データ連携」を重視
これからのシステムは、人間が画面を見る時間は減り、AIが裏でデータを処理する時間が増えます。したがって、「画面がキレイかどうか」よりも、「APIが充実しているか」「学習データが綺麗に取り出せるか(LRS対応など)」という、データの接続性が最重要評価ポイントになります。
戦略③:従量課金(Usage-Based)への注目
「1人月額500円」という固定費モデルではなく、「動画を再生した分だけ」「AIが生成した分だけ」課金されるモデルへの移行が進む可能性があります。「使っていないのに払う」という無駄をなくすため、契約形態の見直しが必要です。
5.SaaS is Deadに関するよくある質問(FAQ)
- Q1.今すぐSaaSを解約すべきですか?
- A.いいえ。SaaSという「提供形態(クラウド)」自体はなくなりません。見直すべきは「無駄なID課金」と「使われていないツール」です。まずは社内のSaaS利用状況を棚卸し(SaaS管理)することから始めてください。
- A.いいえ。SaaSという「提供形態(クラウド)」自体はなくなりません。見直すべきは「無駄なID課金」と「使われていないツール」です。まずは社内のSaaS利用状況を棚卸し(SaaS管理)することから始めてください。
- Q2.AIエージェント型のLMSはいつ頃普及しますか?
- A.既に一部の先進的なLMS(LXP)では、AIによるレコメンドや学習プラン作成が実装されています。「管理業務を全自動化する」レベルのエージェント化も、今後2〜3年で急速に進む可能性があります。
- A.既に一部の先進的なLMS(LXP)では、AIによるレコメンドや学習プラン作成が実装されています。「管理業務を全自動化する」レベルのエージェント化も、今後2〜3年で急速に進む可能性があります。
- Q3.オンプレミスに戻るべきということですか?
- A.一部の超大企業では「クラウド破産(クラウド利用料の高騰)」を防ぐためにオンプレ回帰(クラウド・リパトリエーション)の動きもありますが、多くの企業にとってはクラウドのメリット(拡張性・保守不要)の方が上回ります。「オンプレかSaaSか」ではなく、「賢いSaaSの使い方」が問われています。
6.成功のカギは「ベンダーのAI対応力」と「統合力」
「SaaS is Dead」は、SaaSベンダーに対する「進化せよ、さもなくば死ね」という警告です。ただ機能を並べるだけのSaaSは淘汰され、業務を真に効率化するパートナーだけが生き残ります。
私たちクオークは、LMSの未来をこう描いています。
- AI機能の実装:学習者の理解度に合わせた「アダプティブ・ラーニング」や、管理者の手間を省く自動化機能の実装。
- 統合プラットフォーム化:LMSだけでなく、タレントマネジメントや動画配信など、教育に関わる機能をワンストップで提供し、「ツールの乱立」を防ぎます。
- APIエコシステム:他社の人事システムともスムーズに繋がり、データのサイロ化を防ぎます。
「ツールを入れること」自体が目的化していませんか?「成果(人の成長)」を買いたいとお考えのご担当者様は、ぜひ次世代の教育基盤についてご相談ください。
7.まとめ
- 「SaaS is Dead」とは、ツールの乱立やコスト増に対する限界説。
- LMS市場では「単なる動画置き場」は消滅し、「AIメンター化」と「統合型プラットフォーム」への進化が進む。
- これからの選定基準は「機能の多さ」ではなく、「AIによる業務代行力」と「データ連携力」。
▼次のアクション「増えすぎた社内システムを整理したい」「AIを活用した次世代の教育基盤を構築したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。



