経験学習モデル(コルブのサイクル)

目次

はじめに

「人は、経験から学ぶ」これは誰もが知っている真理です。人材開発の世界には「70:20:10の法則」という有名な経験則があります。ビジネスパーソンの成長の70%は「仕事上の経験」により決まり、20%は上司や先輩からの薫陶、研修などの座学はわずか10%に過ぎない、というものです。

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。「長く働いて経験を積めば、誰でも優秀な人材になるのか?」残念ながら、答えはNOです。

同じ仕事を10年続けても、「1年の経験を10回繰り返しただけの人(マンネリ)」と、「10年分の知見を積み上げたプロフェッショナル」にはっきりと分かれます。

この差を生むのが、経験を知識へと昇華させるプロセス、すなわち「経験学習サイクル」です。米国の組織行動学者デイビッド・コルブが提唱したこのモデルは、OJT、1on1、リーダー育成など、現代のあらゆる人材育成施策の基礎理論となっています。

本記事では、部下を「やりっぱなし」にさせないための4つのステップと、上司が関わるべき「振り返り支援」の技術について解説します。

1.経験学習モデルをひとことで言うと?

経験学習モデルとは、一言で言うと「実際の『経験』を振り返り(内省)、そこから『教訓(法則)』を引き出し、次の『実践』に活かすという4つのプロセスを回すことで、人が成長する仕組み」のことです。

コルブは、「学習とは、経験を変容させることを通じて知識を作り出すプロセスである」と定義しました。単に「体験した」だけでは学習ではありません。それを脳内で加工して初めて、自分の血肉(知識)になります。

このモデルは、以下の4つのステップが循環するサイクルとして表現されます。

【用語の要約】

  • 提唱者:デイビッド・A・コルブ(アメリカ)
  • 目的:OJTの質向上、自律的成長の促進、失敗のナレッジ化
  • 関連法則:70:20:10の法則(ロミンガーの法則)
  • キーワード:内省(Reflection)、概念化、PDCA、オートエスノグラフィー

2.成長の4ステップ:サイクルを回せ

コルブのサイクルは、時計回りに以下の順序で進みます。どこか一箇所でも滞ると、学習(成長)はストップします。

Step1:具体的経験(Concrete Experience)

「やってみる(Do)」のフェーズです。まずは現場で実際にアクションを起こし、成功や失敗を体験します。

  • 状態:「顧客にプレゼンをしたが、反応が悪かった」
  • ポイント:ここがないと何も始まりませんが、ここだけで終わると「ただの思い出」です。

Step2:省察的観察(Reflective Observation)

「振り返る(Look Back)」のフェーズです。体験した事実を、多角的に見つめ直します。

  • 問い:「何が起きたのか?」「なぜ反応が悪かったのか?」「あの時、相手はどんな顔をしていたか?」
  • ポイント:評価や判断をするのではなく、事実と感情を客観的に出し切ることが重要です(リフレクション)。

Step3:抽象的概念化(Abstract Conceptualization)

「教訓にする(Think)」のフェーズです。個別の体験から、他の場面でも使える「法則(マイセオリー)」を導き出します。

  • 問い:「つまり、どういうことか?」「次に活かせるルールは何か?」
  • 法則化:「プレゼンでは、機能の説明よりも先に、相手の課題への共感を示すべきだ(という法則)」
  • ポイント:ここで初めて、個人の体験が「知識」に変わります。

Step4:能動的実験(Active Experimentation)

「試す(Try)」のフェーズです。導き出した法則を、次の機会で実践します。

  • アクション:「次のB社への商談では、冒頭3分間はヒアリングに徹してみよう」
  • ポイント:試すことでまた新たな「経験(Step1)」が生まれ、サイクルが螺旋状に上昇していきます。

3.なぜ現代人は「経験学習」が苦手なのか

このサイクル、言葉にすれば簡単ですが、現代のビジネス現場では「Step2(振り返り)」と「Step3(概念化)」が圧倒的に不足しています。

罠①「多忙」による思考停止

「次、次!」と業務に追われ、Step1(経験)から、いきなり次のStep1(経験)へ飛んでしまいます。失敗しても「次は頑張ります(精神論)」で済ませてしまうため、同じミスを繰り返します。これを「ハムスターの回し車(ただ走っているだけ)」と呼びます。

罠②「概念化」のスキル不足

振り返りはしても、「楽しかった」「難しかった」という感想(日記)で終わってしまうケースです。「つまり、成功の要因は何だったのか?」という本質(Concept)まで深掘りする思考力がないと、再現性が生まれません。

罠③「失敗」への恐怖

振り返りにおいて、自分のミスを直視するのは苦痛です。心理的安全性が低い組織では、「余計なことを言って突っ込まれたくない」という防衛本能が働き、浅い振り返りでお茶を濁してしまいます。

4.上司の役割:サイクルの「補助輪」になる

部下一人でサイクルを回すのは困難です。特に新人は「概念化」ができません。ここで必要になるのが、上司やメンターによる「問いかけ(支援)」です。1on1ミーティングは、まさにこのために存在します。

Step2(振り返り)を支援する問い

「なんで失敗したんだ!」と責めてはいけません。事実を広げます。

  • 「あのお客様、最初は笑顔だったけど、どのタイミングで表情が曇ったかな?」
  • 「自分では何点くらいの出来だったと思う?」

Step3(概念化)を支援する問い

ここが上司の腕の見せ所です。具体的な事象を、抽象的なルールに変換させます。

  • 「他に応用できるルールを作るとしたら、どんな言葉になる?」
  • 「もし後輩にコツを教えるとしたら、何て言う?」
  • 「それって、例の『デザイン思考』の話と繋がるんじゃない?」

上司が答えを教える(ティーチング)のではなく、部下の口から「あ、つまりこういうことですね!」という気づきを引き出す(コーチング)ことが、最強の概念化支援です。

5.研修デザインへの応用:「研修」を「経験」にする

このモデルは、現場OJTだけでなく、集合研修の設計にも応用できます。座学で聞くだけの研修は、Step3(概念)の押し付けに過ぎません。

【コルブ型研修のデザイン例】

  1. 体験(Game):まず、正解を教えずに「ビジネスシミュレーションゲーム」をやらせ、失敗させる(Step1)。
  2. 省察(Debrief):「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで議論させる(Step2)。
  3. 講義(Theory):ここで初めて講師が理論を解説する。「皆さんの失敗は、この理論で説明できます」(Step3)。
  4. 演習(Practice):理論を使ってもう一度ゲームに挑戦し、成功体験を得る(Step4)。

このように、先に「痛い目(経験)」を見せることで、その後の理論への食いつき(学習意欲)が劇的に高まります。

6.コルブの「4つの学習スタイル」

コルブはさらに、人によって「得意なフェーズ」が異なるとし、4つの学習タイプ(Learning Styles)に分類しました。部下のタイプを知れば、指導法が変わります。

  1. 拡散型(Diverging):
    • 特徴:経験(Step1)と振り返り(Step2)が得意。想像力豊かで、ブレストが好き。
    • 弱点:決めるのが苦手。
    • 指導:「で、結論は?」と概念化を促す。
  2. 同化型(Assimilating):
    • 特徴:振り返り(Step2)と概念化(Step3)が得意。論理的で、理論を好む。
    • 弱点:実践しない(頭でっかち)。
    • 指導:「理屈は分かったから、やってみよう」と背中を押す。
  3. 収束型(Converging):
    • 特徴:概念化(Step3)と実践(Step4)が得意。実用的で、正解を求める。
    • 弱点:視野が狭い。
    • 指導:「他の可能性はないか?」と振り返りを促す。
  4. 適応型(Accommodating):
    • 特徴:実践(Step4)と経験(Step1)が得意。直感的で、すぐに行動する。
    • 弱点:計画性がない。
    • 指導:「動く前に少し考えよう」とブレーキを踏ませる。

7.よくある失敗と対策(FAQ)

  • Q1.毎日振り返りをさせると、業務時間が削られます。
    • A.形式的な日報(やったことリスト)は時間の無駄です。「今日の『最大の気づき』を1行だけ書く」これなら3分で終わります。量より質、そして毎日続ける習慣が脳を「学習モード」に変えます。
  • Q2.失敗した時しか振り返りをしません。
    • A.成功した時こそ振り返りが重要です。「なぜうまくいったのか?」を言語化しておかないと、それは「まぐれ(再現性のない成功)」になります。成功の要因(Winning Formula)を概念化することこそ、エースへの道です。
  • Q3.eラーニングで経験学習はできますか?
    • A.工夫次第で可能です。ただ動画を見せるのではなく、「現場で〇〇をやってみる」という課題を出し、その結果レポートを提出させてから次の章に進める構成にすれば、強制的にサイクルを回せます。

8.成功のカギは「LMS」による振り返りの蓄積

経験学習は、個人の頭の中だけで行うと忘れてしまいます。LMS(学習管理システム)を「成長のポートフォリオ」として活用しましょう。

クオークでは以下のようなご支援が可能です。

  1. リフレクション・ログ:日々の業務での気づきをタグ付けして蓄積できる日記機能。
  2. 1on1支援:部下が書いた振り返りを上司が閲覧し、コメントできるコミュニケーション機能。
  3. ナレッジ共有:「私の失敗からの教訓」を全社に公開し、他人の経験から学ぶ(代理経験)仕組み。

「OJTの効果が見えない」「社員に自律的に成長してほしい」とお考えのご担当者様は、ぜひご相談ください。

9.まとめ

  • 経験学習モデルとは、経験→振り返り→概念化→実践のサイクルを回し、経験を知識(再現性ある知恵)に変える仕組み。
  • 現代人は「振り返り」と「概念化」が不足しがち。上司は1on1でこの部分を問いかける必要がある。
  • 成功時も失敗時も「なぜ?」を言語化し、LMSに蓄積することで、組織全体のナレッジとなる。

▼次のアクション「経験学習サイクルを回すための日報フォーマットが欲しい」「1on1で部下の思考を深める質問集を知りたい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

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