オンプレミス(On-Premises)

目次

はじめに

「社内のセキュリティ規定で、クラウドサービス(SaaS)の利用が一切禁止されている」
「顧客情報を扱う研修のため、データは絶対に自社サーバから出したくない」
「特殊な業務フローに合わせて、LMSをフルカスタマイズしたいが、SaaSでは断られた」

世の中は「クラウドファースト」の流れにありますが、すべての企業が手放しでクラウド(SaaS)に移行できるわけではありません。特に、金融機関、医療機関、官公庁、電力・ガスなどの重要インフラ企業においては、「データの物理的な所在」や「完全な自社管理」が絶対条件となる場合があります。

そこで選ばれるのが、「オンプレミス(自社運用)」という形態です。「時代遅れ」と見なされがちですが、実はセキュリティとカスタマイズ性においては、今なお最強の選択肢です。

本記事では、オンプレミスの定義やSaaSとの違い、導入するメリット・デメリット、そして現代における「賢いオンプレミスの選び方」について解説します。

1.オンプレミスをひとことで言うと?

オンプレミス(On-Premises)とは、一言で言うと「サーバ機器やソフトウェアを自社の施設内(または自社が契約するデータセンター)に設置し、自社で管理・運用する利用形態」のことです。

「Premises」は「構内」「店内」という意味です。システムを「自社の敷地内に置く」ことからこう呼ばれます。略して「オンプレ」とも呼ばれます。

かつてはこれが唯一の導入形態でしたが、クラウドサービスの台頭により、あえて区別するためにこの言葉が使われるようになりました。

例えるなら、SaaSが「賃貸マンション(借り物)」であるのに対し、オンプレミスは「注文住宅(持ち家)」です。土地も建物も自分のものであり、内装も自由自在ですが、メンテナンスも全て自分で行う必要があります。

【用語の要約】

  • 目的:データの完全統制、高度なカスタマイズ、イントラネット(閉域網)での利用
  • 対象:LMS、人事基幹システム、秘匿性の高いデータベース
  • 英語:On-Premises
  • 対義語:SaaS(クラウド)、クラウドコンピューティング

2.SaaS(クラウド)との決定的な違い

LMS導入における最大の分岐点である「オンプレミス vs SaaS」。その違いを5つの観点で比較します。

①インフラの所在

  • SaaS:
    ベンダーが用意したクラウド上にある。物理的な場所はユーザには分からない(ブラックボックス)。
  • オンプレミス:
    自社のサーバルームや、自社指定のラックにある。物理的に「ここにある」と指差すことができる。

②カスタマイズ性(自由度)

  • SaaS:
    できない。「みんなで同じ機能を使う」のが前提のため、個別対応は不可。
  • オンプレミス:
    無限大。ソースコードに手を加え、自社独自の評価制度や複雑なワークフローに合わせて、画面も機能も100%作り変えることができる。

③コスト構造

  • SaaS:
    初期費用は安いが、月額費用(ランニングコスト)がずっと発生する。
  • オンプレミス:
    初期費用が莫大(サーバ購入、構築費で数百万〜数千万円)。しかし、一度作ってしまえば、月額のライセンス料は発生しない(※保守費は別)。5年以上使うならトータルコストが逆転する場合もある。

④導入スピード

  • SaaS:
    即日〜数週間。
  • オンプレミス:
    数ヶ月〜半年以上。サーバの調達(納品待ち)、セットアップ、インストール、カスタマイズ、テストといった物理的な作業が必要。

⑤保守・運用

  • SaaS:
    ベンダー任せで楽。
  • オンプレミス:
    自社責任。サーバが故障したら自社の情シスが対応し、OSのアップデートやセキュリティパッチの適用も自社で行う必要がある。

3.あえてオンプレミスを選ぶ「3つの理由」

なぜ、手間もコストもかかるオンプレミスを選ぶ企業がなくならないのでしょうか。そこには明確な戦略的理由があります。

理由①:最高レベルのセキュリティ要件(閉域網)

インターネットに繋がっていないネットワーク(閉域網・イントラネット)でしか利用できないPC環境を持つ企業があります(工場、銀行の基幹系など)。SaaSはインターネット接続が必須なため、物理的に使えません。

この場合、社内ネットワーク内に設置できるオンプレミスが唯一の解となります。また、「データが海外のサーバにあると困る(データ主権)」という法的リスクを回避するためにも選ばれます。

理由②:独自業務へのフルカスタマイズ

うちは特殊な業界で、独自の資格制度や評価ロジックがある。市販のLMSの機能では全く足りない。このような場合、SaaSの機能に合わせて業務を変える(BPR)のが理想ですが、どうしても変えられないコア業務もあります。

オンプレミスなら、自社の業務フローに合わせてシステム側を完全に作り込むことができます。「システムに業務を合わせる」のではなく、「業務にシステムを合わせる」ことができるのが最大の強みです。

理由③:他システムとの密接な連携

自社の生産管理システムや、古い基幹システム(レガシーシステム)とLMSをリアルタイムで連携させたい場合、クラウド経由(API連携)では遅延やセキュリティの問題で接続が難しいことがあります。同じ社内ネットワーク内にLMSサーバを置くことで、高速かつ安全なデータベース直接連携が可能になります。

4.オンプレミス導入の「覚悟」とリスク

メリットは強力ですが、導入には相応の覚悟が必要です。

①「資産」を持つリスク

サーバは「固定資産」です。減価償却の対象となり、会計処理が発生します。また、5年ほど経つとハードウェアの保守期限(EOS)が切れ、サーバの買い替え(リプレイス)という一大プロジェクトが再び発生します。この「5年ごとの憂鬱」はオンプレミス特有の悩みであり負担です。

②障害対応の責任

夜中にサーバがダウンした場合、SaaSならベンダーが対応してくれますが、オンプレミスの場合は自社の担当者が叩き起こされます。情シス部門に高いスキルとリソースがないと、安定運用は維持できません。

③バージョンアップの困難さ

SaaSなら勝手に新機能が追加されますが、オンプレミスの場合、ソフトウェアのバージョンアップ作業も自社で行わなければなりません。手間がかかるため、「導入時の古いバージョンのまま、10年間使い続けている(塩漬け)」というケースが多発しています。これはセキュリティ的にも危険です。

5.第3の選択肢「プライベートクラウド」

「オンプレミスの『自由度』は欲しいが、サーバ管理の『面倒』は嫌だ」そんなニーズに応えるのが、「プライベートクラウド(IaaS利用)」という折衷案です。

Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといったクラウドインフラ上に、自社専用の仮想サーバを立てて、そこにLMSをインストールする方法です。

  • ハードウェア管理:不要(AWS等が管理)。
  • ネットワーク:VPNを使えば、擬似的に社内ネットワーク(閉域網)として扱える。
  • カスタマイズ:自由にソフトをいじれる。

現在、「オンプレミス」と言いつつ、物理サーバではなく、この「プライベートクラウド」を採用する企業が増えています。

6.オンプレミスに関するよくある質問(FAQ)

  • Q1.オンプレミス版のLMSを提供しているベンダーは多いですか?
    • A.減っています。多くのベンダーは開発効率の良いSaaSに一本化しています。オンプレミス版(パッケージ版)を提供し続けているベンダーは、大規模開発に強い一部の企業に限られます。選定の際は「オンプレ版の提供有無」を最初に確認する必要があります。
  • Q2.セキュリティはSaaSより本当に安全ですか?
    • A.「適切に管理すれば」安全です。しかし、自社の担当者がセキュリティパッチを当て忘れていれば、SaaSよりも脆弱になります。「外部と遮断されているから安全」という神話は、内部不正やUSB経由のウイルス感染等で崩れることがあります。
  • Q3.後からSaaSに移行できますか?
    • A.可能です。ただし、オンプレミスでゴリゴリにカスタマイズしていた場合、SaaSの標準機能では再現できず、業務フローの大幅な変更が必要になることがあります。これを「クラウド移行の壁」とも呼んだりします。

7.成功のカギは「ベンダーの技術力」と「情シスの協力」

オンプレミス導入は、単なるソフトの購入ではなく、「インフラ構築プロジェクト」です。サーバのサイジング(性能設計)、ネットワーク設計、バックアップ設計など、高度なIT知識が求められます。

したがって、パートナーとなるLMSベンダーには、教育のノウハウだけでなく、「インフラ構築・保守の技術力」が不可欠です。

8.まとめ

  • オンプレミスとは、自社内にサーバを設置して運用する「持ち家」型のシステム形態。
  • 閉域網での利用や、独自業務へのフルカスタマイズが必要な場合に選ばれる。
  • 運用保守の負担や初期コストは大きいが、プライベートクラウドの活用などで最適化が可能。

▼次のアクション「セキュリティ規定でSaaSが使えない」「独自の機能を追加開発したい」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

お問い合わせフォーム – Qualif(クオリフ)

Qualif(クオリフ)は、「オンライン学習+講座販売」に必要なeラーニングのすべてが揃うLMSです

9.関連用語

Qualif メールマガジン登録フォーム

eラーニング

この記事を書いた人

eラーニング関連ニュースなどを中心に、皆さまのお役に立つ情報をお届けします。

目次