はじめに
「LMSを導入したいが、サーバを自社で買う予算も、管理するエンジニアもいない」
「『クラウドはセキュリティが不安だ』と上層部に反対されてしまった」
「法改正や新機能への対応が遅く、システムが陳腐化して使いにくい」
ひと昔前まで、企業がシステム(LMSなど)を導入するといえば、自社でサーバを購入し、ソフトをインストールして運用する「オンプレミス型」が当たり前でした。しかし、これには莫大な初期投資と、終わりのないメンテナンス業務が伴いました。
この常識を覆し、現在のビジネススタンダードとなったのが「SaaS(サース)」です。必要な機能を、必要な分だけ、インターネット経由で利用するこのモデルは、LMSの世界でも主流となっています。
本記事では、SaaSの定義やオンプレミスとの決定的な違い、企業がSaaS型LMSを選ぶべき3つの理由、そして懸念されがちな「セキュリティ」の実態について、解説します。
1.SaaSをひとことで言うと?
SaaS(Software as a Service)とは、一言で言うと「ソフトウェアを製品(モノ)として買うのではなく、インターネット経由でサービス(コト)として利用する形態」のことです。
読み方は「サース」または「サーズ」です。身近な例で言えば、Gmail、Slack、Salesforce、ZoomなどはすべてSaaSです。
従来は、ソフトのCD-ROMを買ってきて、自分のPCや会社のサーバにインストールしていました(パッケージ版)。SaaSでは、ソフトはベンダー(提供会社)のクラウドサーバ上にあり、ユーザはIDとパスワードを使ってWebブラウザからアクセスするだけです。「所有」から「利用」へのパラダイムシフトです。
【用語の要約】
- 目的:初期コスト削減、導入スピード向上、運用負荷の軽減
- 対象:LMS、メール、会計ソフト、Web会議などあらゆるシステム
- 英語:Software as a Service
- 対義語:オンプレミス(自社運用)、パッケージソフト
2.オンプレミス(自社構築)との決定的な違い
LMSを選定する際、最大の分岐点となるのが「SaaSか、オンプレミスか」です。両者の違いを「家」に例えて比較してみましょう。
オンプレミス(持ち家・注文住宅)
- 形態:自社でサーバ機材を購入し、データセンターに設置してソフトを入れる。
- 初期費用:サーバ代、構築費などで数百万円〜数千万円(高額)。
- 導入期間:数ヶ月〜半年。
- カスタマイズ:自由自在。「玄関を3つにしたい」といった特殊な改造も可能。
- 保守:自社の情シス部門が、故障対応やアップデートを行わなければならない。
SaaS(賃貸マンション)
- 形態:ベンダーが用意したクラウド環境に間借りする。
- 初期費用:サーバ購入不要。初期費用は数万円〜数十万円(安価)。
- 導入期間:最短で即日〜数週間。
- カスタマイズ:制限あり。基本的には用意された機能(家具)を使う。
- 保守:ベンダーがすべて行う。ユーザは何もしなくてもよい。
かつては大企業ほど「オンプレミス」を好んでいましたが、現在はメンテナンスの負担増と技術革新の速さから、大企業でもSaaSへの移行(クラウド・バイ・デフォルト)が加速しています。
3.LMSをSaaSで導入すべき「3つの理由」
なぜ、eラーニングシステム(LMS)においてSaaSが推奨されるのでしょうか。
①「常に最新の機能」が使える(陳腐化しない)
教育トレンドは日々変化します。「動画の倍速再生」「スマホ対応」「1on1機能」など、新しい機能が求められます。オンプレミスの場合、バージョンアップには追加費用と構築作業が必要で、システムは数年で古臭くなります。
SaaSなら、ベンダーが勝手にアップデートしてくれるため、追加費用なしで常に最新の機能を使い続けることができます。これは「変化の激しい時代」において最強のメリットです。
②スモールスタートが可能
まずは新入社員100人だけで試したいという場合、オンプレミスでは、100人でも1万人でもサーバ構築費はかかります。SaaS(特にサブスクリプション型)なら、「1ユーザ月額〇〇円」という従量課金が一般的です。最初は小さく始めて、効果が出たら全社に広げるという柔軟な投資が可能です。
③アクセス集中に強い(スケーラビリティ)
「全社員一斉テスト」などでアクセスが集中すると、自社サーバ(オンプレ)ではダウンしてしまうことがあります。
SaaS(特にAWSやAzureなどのパブリッククラウド基盤のもの)なら、アクセス増に合わせて自動的にサーバ能力を増強(オートスケーリング)するため、「落ちないシステム」を実現できます。
4.セキュリティは本当に大丈夫か?
経営層や情シス部門が最も気にするのが、「大事な社員データや教材を、社外(クラウド)に置いて大丈夫なのか?」という点です。
結論から言えば、「自社で管理するより、SaaSの方が安全」であるケースがほとんどです。
専門家による鉄壁の守り
SaaSベンダーは、セキュリティのプロフェッショナルです。24時間365日の監視体制、WAF(ファイアウォール)、DDoS攻撃対策、データの多重バックアップなど、一般企業の情シス部門ではまかなえないレベルの巨額投資を行ってデータを守っています。「現金を家のタンス(自社サーバ)に隠すより、銀行(SaaS)に預けたほうが安全」なのと同じ理屈です。
災害対策(BCP)
自社ビルにサーバがある場合、地震や停電でビルが被害を受けるとシステムも止まります。SaaSの場合、データセンターは堅牢な施設にあり、さらに「東京と大阪」のように地理的に離れた場所にデータを分散保管(冗長化)しているため、災害時でもサービスは止まりません。
5.SaaS導入の際のチェックポイント(情シス向け)
とはいえ、どんなSaaSでも安全なわけではありません。ベンダー選定時に確認すべき「信頼性の指標」があります。
①認証規格の取得
- ISO27001(ISMS):
情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格。これを取得しているベンダーは、セキュリティ管理体制が整っている証拠です。 - プライバシーマーク(Pマーク):
個人情報の取り扱いに関する国内規格。
②稼働率保証(SLA)
「月間稼働率99.9%以上を保証します」といった品質保証契約があるか確認しましょう。
③データの保管場所
「データは国内のサーバにありますか?」特に官公庁や金融機関では、海外サーバへのデータ保管を禁止している場合があります。多くの国産SaaSベンダーは「国内データセンター利用」を明言しています。
6.SaaSに関するよくある質問(FAQ)
- Q1.自社独自の機能を追加(カスタマイズ)できますか?
- A.基本的には難しいです(マルチテナント方式のため)。ただし、大企業向けプランでは「専用環境」を用意し、カスタマイズに対応するベンダーもあります。また、最近はAPI連携によって外部ツールと繋ぐことで、機能を拡張するのが主流です。
- A.基本的には難しいです(マルチテナント方式のため)。ただし、大企業向けプランでは「専用環境」を用意し、カスタマイズに対応するベンダーもあります。また、最近はAPI連携によって外部ツールと繋ぐことで、機能を拡張するのが主流です。
- Q2.解約したらデータはどうなりますか?
- A.契約終了後、一定期間を経て削除されます。解約前に受講履歴や教材データ(SCORM)をCSVなどでエクスポートできる機能があるか、必ず確認してください。データポータビリティの確保は重要です。
- A.契約終了後、一定期間を経て削除されます。解約前に受講履歴や教材データ(SCORM)をCSVなどでエクスポートできる機能があるか、必ず確認してください。データポータビリティの確保は重要です。
- Q3.インターネットに繋がらない環境(閉域網)でも使えますか?
- A.工場や金融機関など、セキュリティポリシーでネット接続が制限されている場合は、SaaS利用が難しいことがあります。その場合は、VPN経由で接続するオプションや、オンプレミス版の提供があるベンダーを探す必要があります。
7.成功のカギは「業務をシステムに合わせる」発想
SaaS導入で失敗するのは、「今の自社のやり方(アナログ業務)を、そのままシステムで再現しようとする」ときです。
SaaSは「多くの企業で採用されているベストプラクティス(標準的な業務フロー)」を詰め込んだものです。「うちは特殊だから」とカスタマイズを要望するのではなく、「SaaSの仕様に合わせて、自社の業務フローを変える(BPR)」という発想転換ができる企業こそが、SaaSのメリットを最大化し、DXを成功させることができます。
クオークが提供するLMS「Qualif(クオリフ)」は、
- 完全SaaS型:サーバ管理不要、常に最新機能を提供。
- 高セキュリティ:Pマーク取得済み、国内データセンター利用。
- 柔軟なプラン:スモールスタートから数万人規模の大規模運用まで対応。
「セキュリティチェックシートの回答が面倒」「オンプレからの移行を相談したい」というご担当者様は、ぜひ私たちにお任せください。
8.まとめ
- SaaSとは、ソフトを「所有」せず、クラウド経由で「利用」するサービス形態。
- LMSにおいては「常に最新機能が使える」「初期費用が安い」「サーバ管理不要」というメリットがあり、オンプレミスからの移行が進んでいる。
- セキュリティは自社構築よりも堅牢な場合が多いが、ISMS取得などの信頼性チェックは必須。
▼次のアクション「オンプレミスのLMSからクラウドへ移行したい」「セキュリティ要件の厳しいLMSを探している」とお考えのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。



